健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて

著:熊代 亨/イースト・プレス

column

2020.12.03

私たちが望むのはどういった社会なのでしょう。著者が言うように日本の都市、中でも東京は世界の都市のうちでも、群を抜いて快適で安全、清潔で道徳的だということです。ごみのポイ捨てや、歩きタバコはほとんど見ないし、電車は定刻に来て、赤信号は律義に守り、酔っ払いの喧嘩や行列への割り込みも滅多に見ません。こんなに秩序だった都市は世界のどこにも存在しないと言います。

私たちはこんな風潮に忖度して自分を抑え込み、あるいはもっと上のレベルを求めているようにもみえます。著者は2020年の現実を振り返れば、このような通念に生きづらさを感じている人、社会適応するために背伸びを余儀なくされている人、なかには力尽きてしまう人もいるのではないかといいます。街じゅうに行きわたった秩序が、秩序にそぐわない人物を浮き上がらせてしまうので著者はときどき透明人間になるために繁華街へむかう。雑然とした牛丼屋や朝からビールを飲んでいても誰も気に留めない24時間営業のラーメン屋は格好のスポットだと言います。反対に東京の自由が丘や中目黒といった地区は、よれた格好の中年男性を浮かび上がらせてしまう。

「せめぎあうことを前提とした欧米社会と違い、日本は清潔を徹底しあい、不快感や威圧感を漂白しあい、『かわいい』に象徴されるようなハビトゥスを徹底させることでダイバーシティ性を成立させ、その上に個人の自由が成り立っている」と分析します。問われるべきは、清潔な秩序の是非ではなく、それを維持しながらどうやって排除や疎外に誰もが直面しないようにすれば良いのかと結論付けます。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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