MAiZM支援で高専生が起業

19年12月に設立されたのが、Panda（パンダ）株式会社。香川高専情報工学科5年の田貝奈央さん（20）が代表取締役を務める。

田貝さんは徳島県出身で、プロコンの強豪校に進学したいと考え、香川高専詫間キャンパスに入った。チームリーダーを務めて出場した18年大会で、自ら課題を設定し課題解決のためのプログラミングをする「自由部門」の最優秀賞を受賞した。

19年、松尾さんの研究室に香川高専のプロコンとロボコンチームのメンバーが招かれた。東大生が起業したベンチャーも数社見学。「みなさんキラキラしていて、起業という新しい選択肢を考えるようになりました」

松尾さんのアドバイスを受け、AIを使ったシステム開発で起業することにした。子どもからお年寄りまで幅広い世代を笑顔にしたいと、社名を「Panda」に。「動物のパンダは後先考えずにどんどん木を登ってしまうという話を聞いて、私みたいだとも思って」と笑う。

現在、「ARグラス（めがね）」に対応するアプリを開発中。めがねをかけて接客すると、相手の顔を認識し、登録されている顧客リストから名前などの情報を拡張現実に表示するというもの。自身の「お店で顔と名前を覚えてもらったことがうれしかった」という経験から発想した。顧客情報の引継ぎがうまくいかないなど、事業承継に課題を抱える地方の商店で使ってもらいたいと考えている。

高専卒業後は、筑波大学への編入学を予定。Pandaの事業を継続しつつ、仮想空間に広告を表示させるシステムについて学びたいという。「自分が開発した製品を形にして、多くの人に届けられたら嬉しい」

プロコン…全国高等専門学校プログラミングコンテスト
ロボコン…全国高等専門学校ロボットコンテスト

香川高専専攻科1年の武智大河さん（21）が20年8月に設立したのが、株式会社三豊AI開発だ。AIで地域の役に立ちたいという思いを、社名に込めた。

武智さんは愛媛県出身。子どものころから好きだったロボコンで優勝するという目標を叶えるため、最多出場・優勝を誇る香川高専詫間キャンパスに進学。19年のロボコンで見事優勝を果たした。同年の「DCON（ディーコン）」にも出場。ものづくりの技術とディープラーニングを掛け合わせた作品の「事業性」を企業評価額で競うもので、武智さんのチームは企業評価3億円と投資総額3千万円の評価を得た。

高専では電気回路について学び、点検ロボットを製造するテクノ・サクセス（高松市）と共同開発を続けてきた。マイズムが開催する「AIサマースクール」に参加したことで、AIにも興味を持った。松尾研究室との交流や独学で学びを深め、起業を決意。DCONで技術力が数字として評価されたのもきっかけだった。

三豊AI開発ではディープラーニングを用いた「AI送電線点検システム」を開発し、送配電事業者やインフラ点検事業者などに販売していく予定。人が目視で行っている送電線の点検を、同社のシステムを活用したロボットが代わりに行うことで、時間短縮、高精度、低コストの実現が期待できる。

「興味を持ってくれる方は多いですが、どう契約に結び付けていくかが課題」という武智さん。事業化の難しさを感じながらも、自分の知識や技術を製品にしていくのは面白く、挑戦する価値があると考えている。「いずれは地域で雇用を生み、社会貢献できる会社にしていきたい」

DCON…全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト