「実施する」が66.0%、前年度より8.5ポイント改善

2021年度「賃上げアンケート」調査 東京商工リサーチ

Research

2021.05.20

コロナ禍が2年目に入った。厳しい業績が続くが、2021年度に賃上げを実施する企業は66.0%で、前年度を8.5ポイント上回ったことがわかった。前年度(2020年度)は、コロナ禍の影響を大きく受け、2016年に定期的な調査を開始以降、最低の57.5%を記録した。

新たな感染拡大で「まん延防止等重点措置」の対象地域が広がっている。コロナ禍の収束まで長引くと、冬の賞与(一時金)や来春の賃上げにも悪影響が及びかねない。中小企業の業績回復が遅れるなか、可処分所得の下落で消費マインドが冷え込み、小売業や卸売業、製造業の業績悪化を誘発する負のスパイラルに陥りかねない。中小企業は、業績と賃上げの狭間で苦悩が続く。

※2021年4月1日~12日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答8,235社を集計、分析した。

※賃上げの実態を把握するため、「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。

※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

Q1.今年度、賃上げを実施しますか?(択一回答)

回答企業8,235社のうち、「実施する」は66.0%で、前年度から8.5ポイント回復した。前年度は、定期的な集計を開始した2016年以降で最低だった。

規模別では、「実施する」は大企業が74.1%に対し、中小企業は64.8%で、10ポイント近い差がついた。産業別では、「実施する」の割合が最も高かったのは、製造業で71.9%だった。以下、建設業67.4%、卸売業66.9%と続く。最低は、不動産業の46.2%。

Q2. 「賃上げ」の内容は?(複数回答)

Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げの内容について聞いたところ、5,402社から回答を得た。最多は、「定期昇給」の83.6%だった。以下、「ベースアップ」の28.7%、「賞与(一時金)の増額」の22.4%など。

Q3.賃上げ率(%)はどの程度ですか?

Q1で賃上げを「実施する」と回答した企業に賃上げ率(年収換算ベースで100までの数値)を聞き、2,818社から回答を得た。1%区切りでは、最多は「2%以上3%未満」の26.6%。次いで、「1%以上2%未満」の24.0%だった。

「50%以上」は8.2%だったが、2020年度実績は0.7%だった。この差は、コロナ禍で賞与(一時金)などの賃金を大幅に削減した企業が、支給水準を戻した結果とみられる。中央値は、全企業で2.1%、大企業で2.0%、中小企業で2.3%だった。
ワクチン接種効果で経済活動が本格回復を迎えた場合、人手不足の顕在化が懸念されている。賃金を含む待遇の差は、求人面でのインパクトは大きい。賃上げに対応できない中小企業は、人材獲得での苦戦が避けられないだろう。さらに、求人が計画を下回った場合、生産活動への支障も起きかねず、債務返済や事業再構築にも悪影響が危惧される。

コロナ禍での各種支援策の副作用で過剰債務に陥った企業と、財務余力を残した企業の差が鮮明になりつつある。無理した賃上げは体力を余計に削ぎかねず、賃上げの状況を見守ることが必要だ。

東京商工リサーチ四国地区本部長兼高松支社長 立花正伸

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