染物屋で生まれ、幼いころから父の仕事場で遊んでいた大川原さん。成長とともに「跡継ぎに」という周囲のプレッシャーは大きくなっていったが「染物が身近すぎて自分にその仕事が向いているのかどうかも分からなかった」。反発や迷いはあったが、先代がアメリカの大学で染織の授業をしたことをきっかけに高校生の時、家業を継ぐ決意をした。
大学は染織専攻だったが“違い”に悩んだと言う。「うちは、注文通り形にする職人の家。ところが大学では新しい表現を探し、作家として自己をどう伝えるかが一番のテーマ。全く逆でした」。大学院を卒業後は実家に帰ったが、今度は大学でやってきたことがすぐ家業に生かせず苦しかった。
そんな葛藤があったからこそ七代目の個性を確立できた。大学の卒業生とグループを作り定期的に展覧会を開催。2013年から瀬戸内国際芸術祭にも参加している。「職人と作家、2つの顔があるから表現の幅も広がるし、切り替えて仕事に集中できます」
一方で、変えてはならないものもある。「大切にしているのは文化です。例えば獅子組は地域によって伝統も文化も違う。新たな提案をする時はそれを壊さないよう心掛けています」。のり染めという技法自体にも文化的な意味がある。印刷でも作れる時代になぜ、時間をかけて肉体的にも厳しい作業を行うのか。「祭で供える獅子舞の油単やのぼりにもち米で作ったのりを使うのは、実りへの感謝が込められているから。簡単だからと機械で作ったもので代用するのとは違うと思います」
隣の組と豪華さを競う油単、神様への感謝を込めたのぼり、大切な人への手土産ワインを入れるトートバッグ。讃岐のり染は、今までもこれからも人々の暮らしに寄り添いながら進化する。
編集長補佐 石川 恭子
大川原 誠人 | おおかわはら まこと
- 1962年 高松市生まれ
1987年 京都市立芸術大学美術研究科(修士課程)
工芸専攻染織 修了
1993年 第18回シアトル桜祭日本文化祭参加
2005年 ワシントン州立エバーグリーン大学で日本の染めと伝統を教える
2009年 香川県伝統工芸士認定
2012年 高松市文化奨励賞 受賞
2013年・16年 瀬戸内国際芸術祭 男木島で「チーム男気(おぎ)」メンバーとして
大漁旗の作品出展
- 写真
有限会社大川原染色本舗
- 住所
- 香川県高松市築地町9-21
TEL:087-821-5769 - 事業の概要
- 讃岐のり染、藍染め
のれん、旗、幕、獅子油単などの制作 - 資本金
- 300万円
- 社員数
- 7名
- 地図
- URL
- http://www.ok-flag.co.jp/
- 確認日
- 2018.01.04
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