伝統とは 変わり続けること

大川原染色本舗 大川原 誠人さん

Interview

2016.10.06

最近まで父も第一線に。家の中にライバルがいるのは面白い

最近まで父も第一線に。家の中にライバルがいるのは面白い

香川には今も800組を超える獅子舞が残っている。その獅子の使い手がかぶる油単(ゆたん)をはじめ、のれん、旗、神社ののぼり、大漁旗、法被(はっぴ)などを染める技法が「讃岐のり染」だ。技法を受け継ぐ大川原染色本舗は江戸時代から210年以上続く染物店であり、大川原誠人さん(54)は七代目となる。
唐獅子の弱点である虫をを退治するのは牡丹の朝露 唐獅子×牡丹は伝統的な組み合わせ

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唐獅子×牡丹は伝統的な組み合わせ

のり染めはもち米で作ったのりを、色を入れない部分に置いて防染した上で、さまざまな刷毛を使い分けて絹布に色を差していく。江戸以前からあった技法だが、獅子舞の色鮮やかな油単や松竹梅鶴亀を描いた嫁入り道具の布団といった、香川の文化や風習とともに受け継がれてきたものを特に「讃岐のり染」という。

染物屋で生まれ、幼いころから父の仕事場で遊んでいた大川原さん。成長とともに「跡継ぎに」という周囲のプレッシャーは大きくなっていったが「染物が身近すぎて自分にその仕事が向いているのかどうかも分からなかった」。反発や迷いはあったが、先代がアメリカの大学で染織の授業をしたことをきっかけに高校生の時、家業を継ぐ決意をした。

大学は染織専攻だったが“違い”に悩んだと言う。「うちは、注文通り形にする職人の家。ところが大学では新しい表現を探し、作家として自己をどう伝えるかが一番のテーマ。全く逆でした」。大学院を卒業後は実家に帰ったが、今度は大学でやってきたことがすぐ家業に生かせず苦しかった。

そんな葛藤があったからこそ七代目の個性を確立できた。大学の卒業生とグループを作り定期的に展覧会を開催。2013年から瀬戸内国際芸術祭にも参加している。「職人と作家、2つの顔があるから表現の幅も広がるし、切り替えて仕事に集中できます」
伝統は革新から始まる、と大川原さんは考えている。「染物も最初にやった人は時代の最先端だったはず。それが何百年もかけて伝統になる」。環境もお客さんのニーズも変化する中で、常に新しいものを取り入れないと伝統を受け継ぐことはできない。

一方で、変えてはならないものもある。「大切にしているのは文化です。例えば獅子組は地域によって伝統も文化も違う。新たな提案をする時はそれを壊さないよう心掛けています」。のり染めという技法自体にも文化的な意味がある。印刷でも作れる時代になぜ、時間をかけて肉体的にも厳しい作業を行うのか。「祭で供える獅子舞の油単やのぼりにもち米で作ったのりを使うのは、実りへの感謝が込められているから。簡単だからと機械で作ったもので代用するのとは違うと思います」
鮮やかなデザインはNYでも人気 本人は奥のシンプルな図柄が好み

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数年前から、のり染めの横長トートバッグやランチョンマットなどを作っている。トートバッグは、伝統工芸に携わる他業種の人たちと結成したグループでの商品づくりから生まれた。「染物以外の文化と交流することで、自分のやっていることを客観的に理解できました」。昨年はニューヨークでトートバッグや油単を発表した。「これが伝統工芸品?というものをお客さんに面白がってもらうことで需要が生まれ、技法を残すことができる」。何より、使う人の喜ぶ姿が励みになると言う。

隣の組と豪華さを競う油単、神様への感謝を込めたのぼり、大切な人への手土産ワインを入れるトートバッグ。讃岐のり染は、今までもこれからも人々の暮らしに寄り添いながら進化する。

編集長補佐 石川 恭子

大川原 誠人 | おおかわはら まこと

1962年 高松市生まれ
1987年 京都市立芸術大学美術研究科(修士課程)
    工芸専攻染織 修了
1993年 第18回シアトル桜祭日本文化祭参加
2005年 ワシントン州立エバーグリーン大学で日本の染めと伝統を教える
2009年 香川県伝統工芸士認定
2012年 高松市文化奨励賞 受賞
2013年・16年 瀬戸内国際芸術祭 男木島で「チーム男気(おぎ)」メンバーとして
    大漁旗の作品出展
写真
大川原 誠人 | おおかわはら まこと

有限会社大川原染色本舗

住所
香川県高松市築地町9-21
TEL:087-821-5769
事業の概要
讃岐のり染、藍染め
のれん、旗、幕、獅子油単などの制作
資本金
300万円
社員数
7名
地図
URL
http://www.ok-flag.co.jp/
確認日
2018.01.04

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