一画ずつに心を込めて

聖融書道会 主催 加藤 聖岳さん

Interview

2015.05.21

高松市内5カ所で書道教室を開いている加藤聖岳さん(46)は、聖融書道会の2代目だ。先代だった父の聖峰さんは2004年に亡くなり、会を受け継いだ。

小学生の時に書道を習い始め、3人兄弟の中でただ1人長続きしたという。両親から書を学んだが、強いられたことはなかった。大学卒業を迎える頃、書道家として歩むか、就職するか迷った。

「決め手は『若い時の未熟さは許される』という父の言葉でした」。不安もあったが、心を決めた。加藤さんの穏やかな語り口には、書に傾ける情熱がにじむ。

昔は習い事と言えばそろばんか書道しかなかったと振り返る。「今は何でもあるし、器用な子が増えたなと思いますね」。けれど、文字はすぐにうまく書けるわけではない。簡単には習得出来ず、鍛錬するからこそ意味がある。「根気・真剣・努力が必要。基本を一所懸命取り組んだ後に、楽しさがやってくるものだと思います」

若い頃は手本を見ながら書く臨書や展覧会活動を中心に行っていた。加藤さんは漢詩集を教科書に、特に王羲之の臨書に励んだ。王羲之は後世に大きな影響を与えた中国の書家で、書聖と呼ばれている。「これまでの書を踏まえて、初めて自分の字が完成するんです」

20代の頃、水墨画を習うために岡山の倉敷まで通っていたことがある。書道と同じ墨と筆を使っても、全く違う作品が出来ることに感動を覚えた。墨のすり方、筆の使い方、それぞれが書道とは異なり、学ぶことが多かった。

教室には幼児から80代まで幅広い年齢の生徒がいるが、向き合う時はいつでも一対一。人によって得手不得手も違う。生徒の作品には必要最低限の朱書きしかしない。「自分が書いたものが真っ赤になると否定されたように感じますからね。まずはうったて(起筆)から一画ずつ。上達は一歩一歩です」

あれもこれもと、いろいろな課題をやりたくなってしまいがちだが、集中力があり根気強く続けられる人がうまくなれる人だとか。続ければ続けるほど味が出てくる。「字を使って自分を表現するので、生活も含めて書道と言えるかもしれませんね。感性が磨かれれば周りの景色の見え方も違ってきます」

保育所で鉛筆の持ち方を指導したり、カルチャーセンターの講師を務めたりと、教室運営のほかにも精力的に活動する。依頼を受けて書をしたためることもあり、これまで寺社や飲食店などの看板制作を手掛けてきた。

日本の伝統芸術に携わる者としての大きな役割も感じている。「書道という素晴らしい文化を残していきたい。そのためにも指導者の育成に力を入れなければ」。かつての教室の生徒がこの春、高校の書道教師となった。知らせを聞いた時、本当にうれしかった。

がむしゃらに進んできた書の道。振り返れば長いようで短い。加藤さんにも子どもが3人いる。自分の両親と同じように、子どもたちに書道を強要することはない。「やりたいことは自分で見つけるものですから」。一画ずつに心を込めるように、書の道を踏みしめる一歩もたおやかだ。

加藤 聖岳 | かとう せいがく

1969年5月 高松市国分寺町生まれ
聖融書道会 主宰
由源社 委員
読売書法会 幹事
日本書芸院 一科審査会員
香川県美術家協会 役員
毎日書道会 理事
四国書道展 招待作家
香川県展(2013年奨励賞受賞)
写真
加藤 聖岳 | かとう せいがく

聖融書道会

所在地
高松市国分寺町福家甲2370-3
TEL
087-874-1338
確認日
2018.01.04

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