カルチャーを作ることで地域に貢献したい

電通西日本 高松支社長 矢野 昭文さん

Interview

2016.10.06

話をするのは人間同士。引退しても付き合える関係を築きたい

話をするのは人間同士。引退しても付き合える関係を築きたい

大学の合格発表を見に初めて香川を訪れた。フェリーから見える多度津港や昔話に出てくるような山・・・。その風景とそれを眺めていた当時の気持ちは今でも覚えている。「本当は地元の大学が第一志望でした。だから、自分がここに来なければならないという現実を受け入れられずにいました」

ペンネームは伊集院明

「香大解体新書」は当時150円で販売

「香大解体新書」は当時150円で販売

大学入学後の生活はそれなりに楽しかったが、心の底にあるうつうつとした思いは晴れなかった。誘われて入った美術部もすぐにやめた。「周りの人間は、真面目でおもしろみがなくて日常に不満も疑問も持たずのんびり生きているように見えました」

そんな環境に自分自身が慣れてしまうことへの焦燥感から大学3年の時、友人2人と伊集院明というペンネームで「香大解体新書」という雑誌を作った。社会に対して思うことや香大生への風刺などを、古いタイプライターで一文字ずつ打った苦心の作品は賛否両論。地元の新聞やテレビにも取り上げられた。「毎日もどかしい、みんなもっと戦え・・・うまく言えませんが、自分の中にある何かを表現したかったんでしょうね」

根っこの部分から仕事がしたい

夏休みに実家の工務店で作業を手伝っていたころからインテリアや建築、ものづくりに興味があったという。最初に就職した会社では、瀬戸大橋博、青函博などのパビリオンを造る仕事に携わる。地域の魅力を発掘してそれを立体として表現することは、雑誌のような平面とはまた違うおもしろさだった。

しかし同時に、その仕事を通じて新たな世界を知る。「広告代理店という存在を初めて知りました。確かに自分たちはパビリオンを創造しているけれど、それは広告代理店が考えた枠に基づいて表現しているにすぎない」。もっとクライアントと近い距離で白紙から考えたい、根っこの部分から仕事がしたいという思いが現在の原点となった。
誕生日に夫婦で食事。 奥さんはフリーの司会者

誕生日に夫婦で食事。
奥さんはフリーの司会者

広告業界に転身後は、複合商業施設の出店から販促、イベント、新商品キャンペーンなどを手掛けた。失敗が許されない緊張感の中で、重役たちの前でプレゼンを競い何度もやり直す日々。「死ぬほど大変でしたが相手に尽くして、求められることに全力で応えるべきだと思っていました」

仕事を通して自分たちは“文化を作っている”という思いは、電通に入ってからも変わらない。「地域電通は特に地域カルチャーを作ることがミッション」。広島時代の「おしい!広島県」プロジェクトや瀬戸内ブランド発信業務などの経験を生かし、香川でも地域の魅力を世界に発信したいと考えている。

印を探して 小説「黄色いカブトムシ」

サラリーマン生活も残り10年と考えた50歳の時、短編小説「黄色いカブトムシ」を出版した。サン=テグジュペリの星の王子さま、宮沢賢治の銀河鉄道の夜などを読んだ少年時代の感動や葛藤を表現したいという思いが湧いてきて、一気に書き上げた。「子どものころ、生きていくべきベクトルを見つけようとしていたのかもしれません」。自分がどうあるべきかを模索する昔の姿を、まえがきで「印を探していた」と表現している。

まだ先だが、退職後はやっぱり何かを作りたいという。「小説なのか油絵なのか分かりませんが。“印”を発見したいんでしょうね」。少年の真っ直ぐさと豊かな感性は今も変わらない。
イベントの企画をきっかけに自転車が趣味に。 島根の宍道湖を一周

イベントの企画をきっかけに自転車が趣味に。
島根の宍道湖を一周

矢野 昭文 | やの あきふみ

略歴
1963年 4月 広島県生まれ
1987年 3月 香川大学法学部 卒業
1987年 4月 株式会社乃村工藝社 入社
1990年 7月 株式会社I&S 入社
1997年 7月 株式会社電通西日本 入社
       広島支社営業部 勤務
2004年 7月 同 部長
2008年 5月 松山支社 支社次長
2010年 9月 広島支社 支社次長
       兼 プロモーション部 部長
       兼 マーケティング部 部長
2012年 4月 広島県 出向
2013年 4月 株式会社電通西日本広島支社
       支社次長 兼 プロモーション部 部長
       兼 マーケティング部 部長
2015年 7月 広島支社 EPM
       兼 コミュニケーションプランニング室 室長
2016年 3月 高松支社 支社長

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