また、古来、種で繁殖してきたことから、日本に分布するカキの品種は多種多様で、明治時代後期の調査では、約1,000品種が日本に存在していたと報告されています。現代を代表するカキとしては、甘カキの「富有(ふゆう)」や、渋ガキの「平核無(ひらたねなし)」がありますが、今から300年くらい前は、どのようなカキが食べられていたのでしょうか。
高松松平家博物図譜のうち、花や果物が描かれた『衆芳画譜 花果』には、多くのカキの絵が存在しますが、特に注目すべきが「裏8」に描かれた2品種ではないでしょうか。
一つが、「大和ガキ又ゴショガキ」です(写真左)。2つの名称が列記されていますが、「大和」は、細長い渋柿であり、形状から「御所(ごしょ)」であると考えられます。「御所」は、その名の通り奈良県御所市が原産地であり、日本で最も古い完全甘ガキ(種が入らなくても甘ガキとなる)です。現在では、主役の座を他の品種に譲りましたが、御所市において栽培が続けられています。
そしてもう一つが、干しガキの品種である「アマボシカキ ミノハチヤ」(写真右)です。名称からは、「富士」「葉隠(はがくし)」「堂上蜂屋(どうじょうはちや)」の3品種が候補として挙げられます。九州中北部で栽培される「葉隠」は、干しガキにしたものが「あま干し柿」と呼ばれますが、果実の形状は丸型に近く、また、岐阜県加茂市で栽培される「堂上蜂屋」は、果頂部が丸く、いずれも描かれた形状とは異なります。全国に分布する干しガキ用の品種として活躍する「富士」(別名「美濃」「蜂屋」など)に最も近いと考えられます。
『衆芳画譜 花果』に並んで描かれたカキは、当時、食用として活躍していた甘ガキと渋ガキを代表する2品種であり、300年の時代を経た今でも変わらず私たちの舌を楽しませてくれています。
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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