映画を早送りで観る人たち

著:稲田 豊史/光文社

column

2022.06.16

私たちの年代になると、さすがにそんなにせわしない生活を送っている人は少ないと思いますが、世の中には映画を早送りで観る人たちが少なからずいるのだということを、恥ずかしながら本書を読んではじめて知りました。ビデオテープが出はじめた頃、映画は映画館で観た以外は観たうちに入らないなどと、さんざん言われていましたが、今はどうでしょう。ビデオからDVDに変わり、さらに動画配信サービスへと、映画を観る方法は移行してきています。

かつては映画館で見逃した作品は二度と見ることが出来ませんでした。特に二番館や三番館のない地方では普通でした。関西で住んでいた頃、3本立て300円の映画館に随分お世話になりました。京都の一乗寺にあった京一会館は4本立て200円だったと記憶しています。そういった映画館はほとんど無くなってしまいましたが、現在の定額配信サービスは低料金で映画やドラマが見放題というものです。

著者は上映時間に合わせ、映画館に行って観るものだった映画の時間的、場所的、物理的制約を取り払い、さらに金銭的制約をも取り払ったのが現在の状況だと言います。そして「その夢のサービスは、作品を鑑賞する機会を増やすよりずっと大きなインパクトで、コンテンツを消費させる習慣を我々に根付かせたのかもしれない」と付け加えます。映画といえど一つのコンテンツです。いつ、どこででも、安く、膨大な数の映画が見られるとしたらどうなるでしょう。私自身、絶対早送りでは観ないという自信はありません。

ネット上には映画を1.5倍速で観てもセリフが聞き取れ、字幕も出る機能があるといいますし、さらに数分程度の動画で映画一本を結末まで解説する通称「ファスト映画」というものがYouTube上に多数存在するといいます。こういった波は映像の分野だけでなく、音楽や本の分野にも押し寄せて来ています。倍速視聴や短い動画を観慣れている人たちは単位時間あたりの情報処理能力というものは相当上がっているでしょうし、彼らは非倍速視聴者とは異なる処理速度のCPUで映像に向き合っている可能性も否定できないと著者はいいます。

山下 郁夫

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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