
従来の日本経済の入門書は、たいていは第二次世界大戦後の日本経済復興から始まっています。しかしこれから社会に出る若い人にとっては、1956年の経済白書に記された「もはや戦後ではない」というフレーズも、その後のバブル崩壊後の「失われた10年」も実体験としてではなく、ピンとこない歴史です。
この本の著者はエコノミストではなく新聞記者です。国内外の経済の現場で取材し見聞きしたことをもとに日本経済を分かりやすく解説します。著者はこの本を思いきって、平成が始まった1989年から始めます。そしてひとつの国がわずか30年間で、これだけ絶頂から奈落の底に落ちた例は少ないのではないかと言います。
本書に記載されている平成30年間の重要な出来事という表を見ると、さながらジェットコースターに乗った気分になります。それもひたすら下に向かって転げ落ちる気分でしょうか。まだ平成が始まった最初の年はソニーが米コロンビア社を、三菱地所がロックフェラーセンターを買収し、日経平均株価が3万8,915円の最高値をつけました。それが翌年には一時2万円を割り、阪神淡路大震災をはさんでいくつもの金融機関が経営破綻し、2003年には株価もバブル後の最安値7,607円をつけ、さらに2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災へと続きます。
バブル崩壊後の長いトンネルをようやく平成の終わりになって抜けだそうとしているように見えますが、その先の「坂の上の雲」はまだまだ克服する試練として待ちかまえているようです。エネルギー革命はもちろん、少子高齢化さえもチャンスにして欲しいと、若い世代に著者はこの本を贈りたいと言います。
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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