本当はダメなアメリカ農業

著者 菅 正治/新潮社

column

2018.07.05

この本の著者は今年の2月までの4年間、アメリカ農業の中心であるシカゴに駐在し、アメリカ農業のありのままの姿を身近に見続けてきたジャーナリストで、現在はデジタル農業誌の編集長です。

一般的にはアメリカ農業のイメージは、飛行機で広大な農地に農薬や肥料を散布している映像を思い浮かべるのではないかと思います。加えて象徴的なのが遺伝子組み換え作物でしょうか。アメリカ農業の二大作物はトウモロコシと大豆です。それぞれの作付面積は日本の国土面積とほぼ同じという広さで、ともに生産高も、単位面積当たりの収穫量も世界最大となっています。これらの9割以上、その他の作物を含めてもおよそ8割が遺伝子組み換え作物だと言われています。

TPPやFTAの協定を結ぶと、これらのアメリカの農産物が日本に入ってきて国内の農業は壊滅的な打撃を受けると言われています。しかし現在のアメリカの農業は、遺伝子組み換え作物に対する消費者の反発、環境汚染、農産物価格の低迷、後継者不足による高齢化、そしてトランプ大統領によるTPP離脱表明など様々な問題を抱え疲弊し、苦境に立たされています。今は冷静な議論が必要であると著者は言います。

アグリビジネスが巨大化して、いまや農作物も工業製品と同じで世界がマーケットの商品と化しています。そこではアメリカや日本の農家の人々の顔は見えませんし、世界の農作物を作る人たちが敵対しあうというのはおかしな話です。強いとか弱いとかではなくアメリカの農業の現状を見ることで考えさせられます。効率化や規模の拡大にばかり重点をおくと、これから先、持続的な農業が維持できるか心配です。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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