「独創力」で ニッチトップを究める

四国化成工業 社長 兼 C.E.O. 田中 直人さん

Interview

2018.09.06

宇多津町浜二番丁の四国化成工業R&Dセンター。田中さんが手をかけているのが 安全性を高めたアルミ製の塀「アートウォール」

宇多津町浜二番丁の四国化成工業R&Dセンター。田中さんが手をかけているのが
安全性を高めたアルミ製の塀「アートウォール」

なぜ?なぜ?なぜ?

「化学品」と「建材」の製造・販売を二本柱にする四国化成工業は、香川が誇るニッチトップ企業だ。

車のタイヤに欠かせない原料で、ゴムに弾力を与える不溶性硫黄「ミュークロン」のシェアは世界2位、プリント配線板の銅回路を錆から守る薬剤「タフエース」は世界トップシェアを誇る。

「背伸びをして大きなものに手を出すと、設備投資などでとんでもないことになる。身の丈に合ったニッチな分野を攻めていきます」。今年6月に社長になった田中直人さん(66)は謙遜しながらも、こう続ける。「少量でも高付加価値な商品で勝負する。小粒でも世界に通用する企業を目指していきます」

戦後間もない1947年に丸亀市で創業し、化学繊維レーヨンの原料である二硫化炭素の製造を開始した。安価で大量生産できる製法を開発し、「当時、二硫化炭素メーカーは全国に二十数社あったが、『もう四国化成に任せよう』となった。現在残っているのは我が社のグループ会社一社だけです」
グリキャップが施されるプリント配線板

グリキャップが施されるプリント配線板

売り出し中なのが、スマートフォンのプリント基板などに使われる「グリキャップ」。回路の銅と樹脂との密着性を高め、データ通信の飛躍的な高速大容量化に貢献する材料だ。「時代が要求するものは、どんどんレベルが高くなっていて、一度追い越されると一気に引き離される。追いつかれる前に、常に新たなものを生み出していかなければなりません」

市場で必要とされているものは何なのか。毎月検討委員会を開いてアイデアや意見をぶつけ合う。その根幹にあるのが、企業理念に掲げている「独創力」だ。

「独創力とは現状で立ち止まらずに、なぜ?なぜ?なぜ?と考え続ける力のことだと思う。独創力を追求し、どこも手を出せないような商品を今後もつくっていこうと思っています」

自分には何ができるのか

使命感をもってやり遂げる 「自己完結型」人材を育てたい

使命感をもってやり遂げる
「自己完結型」人材を育てたい

大学時代、ゼミの担当教授から「自分でつくったものを、自信を持って売っていく。達成感のある仕事をしたいならメーカーがいいぞ」とアドバイスされ、1975年、四国化成工業に入った。「四国化成の主力商品は化学品の中間原料なので、お客さんは加工メーカーなどの業者、つまりはその道のプロフェッショナル。プロを相手にする仕事って面白そうだなと思いました」

新人時代は試練の連続だった。営業部に配属され、学校プール用の殺菌・消毒剤を業者へ売り込みに行った。担当する薬剤師から商品への専門的な質問が次々と飛んできたが満足に答えられず、「もう来なくていい」と突き放された。「私は商学部出身の文系で、当時はどうしても技術的な知識が乏しかった。『じゃあ自分には何ができるのか』と、いつも考えていました」

汚れているプールがあれば、休日返上で掃除に出向いた。小学生には消毒槽の正しいつかり方をレクチャーし、プールの水がどのくらい汚れていて、どう殺菌するのが効果的か、テストデータを取るのに奔走もした。すると、次第にお客さんの様子が変わっていった。「もちろん専門的な知識は必要です。でも一番大事なのはお客さんが何に困っているのかを考えること。それさえできればなんとかなるものです」。考え抜き、自分ならではのやり方で挑んでいった若き日々をしみじみと振り返る。

独創力をさらに磨いて

数字の7に似たフォルムから命名した新商品 「マイポート7(セブン)」。 耐風雪や熱遮断などを備えた高機能カーポート

数字の7に似たフォルムから命名した新商品
「マイポート7(セブン)」。
耐風雪や熱遮断などを備えた高機能カーポート

四国化成は1970年代から、門扉やカーポートなどの建材製造にも進出。今では化学品と並ぶ主力事業の一つだ。

2011年に起きた東日本大震災。当時、建材部門を担当していた田中さんは、倒壊した多くのブロック塀を見て思った。「丈夫で、万が一倒れてもケガをしない軽い塀はつくれないか」。翌年誕生したのが、コンクリートブロックに比べ、20分の1に軽量化したアルミ製の塀「アートウォール」だ。現在は、学校施設の耐震化などを進める一般社団法人文教施設協会や国土交通省の認定商品になっている。

今年6月、悲しい事故が起きた。大阪北部地震で、小学校のブロック塀が倒れ、下敷きになった9歳の女の子が亡くなった。「残念でなりません。関西にもアートウォールを導入している学校はあり、そちらは被害がなかったので・・・・・・」と田中さんは唇をかむ。「適正なブロック塀もあるが、後から高さを継ぎ足したような危ういものもある。今後、アートウォールが広がっていくかは分からない。ただ、補助金などを活用し、まずは通学路のブロック塀を全て壊す。それくらいの対策も必要なのではないでしょうか」

社長になって2カ月余り。まずは人材づくりに力を注ぎたいと話す。「これまでは効率を求め、分業制や専門性を重視してきた。でも、それだと『私はもう、やることはやった』と仕事に対する思い入れが薄れるのではないかと思うんです」。そして、こう続ける。「私は『自己完結型』の人間を育てたい。使命感をもって全てを自分でやり遂げる。少しくらい効率が悪くてもいい。考え抜いて自己完結することで、独創力もさらに磨かれていくと思っているんです」

篠原 正樹

田中 直人 | たなか なおと

1952年 三豊市詫間町生まれ
1971年 高瀬高校 卒業
1975年 国際商科大学(現東京国際大学)
    商学部 卒業
    四国化成工業 入社
2002年 執行役員
2005年 取締役
2016年 代表取締役副社長執行役員
2018年 代表取締役社長 兼 C.E.O.

四国化成工業株式会社

住所
香川県丸亀市土器町東8丁目537番地1
住所
丸亀市土器町東8丁目537番地1
TEL.0877・22・4111
設立
1947年10月10日
資本金
68億6770万円
従業員数
642人(2018年3月末、出向者除く)
事業内容
不溶性硫黄、二硫化炭素、殺菌・消毒剤、ファインケミカル製品等、化学品の製造・販売
内装材、外装材、エクステリア等、建材製品の製造・販売 他
地図
URL
https://www.shikoku.co.jp/
確認日
2018.09.06

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