妻有地方は国内有数の豪雪地帯。千曲川がこの地で信濃川と名を変え、河岸段丘が盆地をなし、深い山里がそれに続く。妻有(つまり)の呼称は、「行きづまりの地」からついたという説もある。自然環境は厳しく、暮らしは過酷で、歴史的にも忍従の時代が長く続いたと聞く。
今夏、第1回瀬戸内国際芸術祭を担当した仲間8名で妻有を旅した。私たちにとって大地の芸術祭は、瀬戸芸の兄とも姉とも慕う芸術祭である。瀬戸芸の開催が決まった08~09年頃、何度か妻有を訪ねた。市町の担当者やボランティア団体、集落の世話役の方々から、芸術祭の理念・目標、実施運営体制、アーティストの役割、地域との連携など多くのことを学ばせていただいた。
今回の旅は、土日2日間の強行軍。結局、十数カ所巡るのが精一杯だったが、中身は充実していた。旧上郷中学校は演劇の拠点「上郷クローブ座」に変身、「森の学校キョロロ」でのブナ林の散策、ボルタンスキー「最後の教室」は相変わらずの迫力、星峠からみた棚田風景の圧巻、よく冷えたトマトやキュウリのお接待などなど。
里山の作品を巡りながら、自然や人々の暮らしに癒やされていく。「人間は自然に内包される」という大地の芸術祭の基本理念が実感をもって胸に迫る。大地の芸術祭は確実に進化(深化)している。私たちの一致した感想だ。アート展とか芸術祭とかを突き抜けた、アートを媒介にコミュニティを守り再生していこうという地域の意志がはっきり見えた気がした。芸術祭本来の理念が形になって進んでいる。
日曜日の最終便で帰高。3年後、また妻有に行こうと誓って解散した。越後妻有は心の故郷になっている。
来年3月には第3回瀬戸内国際芸術祭が開幕する。妻有の山々にこだまする故郷を守り育てようとする想いが、早春の瀬戸内の潮風にのって私たちに届けられる。残雪深い妻有からのメッセージ。そんな情景が浮かんできた。
香川県教育委員会 教育長 工代 祐司
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