流域外分水

前・四国地方整備局長 名波 義昭

column

2016.11.17

今年の夏は、香川県の水源である吉野川流域の降雨量が少なく、吉野川から取水している香川用水について取水制限が実施されました。

香川県の年平均降水量は1,170mmで、全国平均の70%です。また、一人当りの年平均降水量×面積でみると、香川県は2,200m³/人で、全国平均の45%に過ぎません。1973年の高松砂漠と言われる渇水などに苦しめられてきました。

このような状況から、吉野川上流の高知県内の早明浦ダムで貯水し、中流の徳島県内の池田ダム湖から分水し、讃岐山脈をトンネルで抜き、香川県内一円に水路で水道用水、工業用水、農業用水を供給しています。この水路が香川用水であり、ダムとあわせて水資源機構が管理しています。香川用水で、香川県内の水利用の約3割、水道用水の約5割を供給しています。

吉野川の水資源開発計画は最初、明治時代に構想され、戦後、様々な案が検討され、67年に法定計画として閣議決定されました。その後、事業を進め、早明浦ダム、香川用水等は、75年から管理を開始しました。

一般に、ダムによる洪水調節や水資源開発により中下流域に受益が及ぶのに対して、建設予定地では家屋の移転等があり、事業実施について地元の理解を得ることは大変です。水源地域のご理解、ご協力のもとダム事業が成り立っているのです。

ある河川でダムを建設して水資源開発を行い、その河川の流域外の地域に水を分配する流域外分水は、当該河川における既存の水利用者との調整も必要となるため、事業の困難さが増します。水資源開発を行う河川と水利用する地域が同一県内であれば、その県内での調整により、事業を促進することができます。

一方、吉野川から香川県に分水するように、他県への流域外分水は関係者の調整が極めて大変な事業となります。香川用水のような事業は、国内での例は少なく、まさに国家プロジェクトでなければ実現しません。このような事業を実現した先人には深く敬意を表する次第です。

この夏、香川県内の河川が干上がっていた時でも、香川用水の水が蕩々と流れているのを見たときには、感動しました。

渇水時には貯水池から水を補給するため、早明浦ダムの貯水率は1日で約2%低下します。即ち、2カ月程度で貯水池は空になってしまいます。中国の故事成句に、「飲水思源」があります。水を飲む者は、その源に思いを致せという意味です。水を分けていただいているのですから、水を大切に使っていきましょう。

前・四国地方整備局長 名波 義昭

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前・四国地方整備局長 名波 義昭

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