
暗幕が張られた薄暗い会場。張りつめた空気。5人の女子選手がライフル銃を構え、10m先の標的に向けて弾を放つ。赤外線を利用したビームライフルというもので実弾を撃つわけではない。30分間に40発の光の弾を撃ち、その合計点を競う。標的は直径46mmの円形で、その中心の直径1mmの範囲に命中すれば10点、2.5mm外すごとに減点されていく。驚いたのはこの中心の直径1mmの10点部分に当たっても、ど真ん中かそうでないかが記録され、合計点が同じ場合はど真ん中の数の多さで勝敗が決まることだ。
ビームライフルと名前は軽やかだが、銃の重さは4kg以上もあり、厚く硬い射撃スーツと左腕を覆うグローブ—通称“ガンダム服”—の装着が義務付けられている。ひと試合、30分間直立不動、一発一発ミリ単位の誤差調整に挑む。暑い中、心と体のギリギリの集中力が求められる。見ている方が疲れ果てた。
この後、多度津町で少林寺拳法、丸亀市内で卓球と体操を観戦した。賑やかで沸き立つ会場もあれば、静かに息を詰める会場もあり、競技ごとの雰囲気の違いにびっくりした。そして何より、試合の展開の中で、選手の気迫と緊張、焦りと粘り、落胆と歓喜など多様な感情が次々と伝わってくる。スポーツ競技は小さな人生劇場と言われるのも頷ける。
今年の高校総体は参加校46校、8,792人もの生徒が参加している。サッカーやバスケット、バレー、卓球、陸上などメジャーなものからライフルやボートなど参加者の少ないものまで、男子32競技34種目、女子30競技32種目。県大会で勝ち残れば四国大会、全国大会へと向かう。もうすぐ高校野球も始まる。熱いスポーツの夏はまだまだ続く。
私はスポーツ競技とは縁のない人間だった。一言でいえばとろかったので、高校時代にはスポーツから遠ざかってしまった。高校総体出場など夢の世界であった。今回、初めて高校総体の現場に立ち会い、高校生たちの一生懸命で生き生きとした姿を垣間見て、遅ればせながらスポーツ競技の面白さ、勝ち負けを越えた教育的意義を感じることができた。選手諸君、お疲れさま、ありがとうございました。
香川県教育委員会 教育長 工代 祐司
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