市場は脳にあり。田舎で編み出した販売戦略

マツシタ 代表取締役 松下 三郎さん

Interview

2008.12.04

文具店が街から消えた。便利で安いスーパーやコンビニ、それにメーカーの直接通販などの影響だ。
「母から引継いだ文房具店を、商売が難しい田舎でなんとかしようと思い続けたら、経営モデルが出来たんです」
人口3万4千人、少子高齢化が進む東かがわ市で、文具店やパソコン教室を経営する(株)マツシタ代表取締役 松下三郎さんは、市場経済の常識と少し違う方法で、田舎で存続できる経営モデルを編み出した。

人口3万4千人は17万人になる

東かがわ市で、30人近い社員を生活させていくために市場は最低でも10万人程度は必要だろう。
自社の地域以外に市場を求めるのが常識だが、松下さんの目指した市場はお客さんの頭の中身、『脳』だった。「田舎では顧客の数に限界がありますが、人の『脳』には余地がいっぱいありますから」 

マーケティング理論では、顧客の数と収入の限度以上に購買力は増えないはずだ。「東かがわ市の住民のうち、文房具を買う人は2割ぐらいです。しかし不思議なことに、自己啓発やエステ、パソコンスクールや子供の教育、インターネットなどに使うお金を、人間の脳は別の財布だと認識します。いま並べた5例に人口を掛けると17万人です」

少ない顧客から利益を生む

顧客の数を増やすのではなく、既存顧客の潜在ニーズを開発して新しいサービスや商品を提供する。少ない顧客を徹底的に大切にして利益を生み出す手法だ。松下さんはコングロマリット(複合企業体)をもじって“小コングロマリット理論”と名付けている。

顧客の脳に直接コンタクトするための方法が、『さぶちゃん通信』の発行だ。「社長や社員が紙面に載ると好感度や信頼度がアップする“顔出しマーケティング”です」


※(さぶちゃん通信)
マツシタの新商品やサービス、地域の話題を掲載するミニコミ情報紙。

価値を売るための順番

「この所得層はこのぐらいの物しか買わないという市場調査を信じません。お客様は欲しい物は絶対買います」。スーパーやコンビニで売っている文房具を、専門店で買いたいという価値にすればいい。品物ではなく価値を売るのだ。
「実は価値を売るための順番があります。1番目にわが社の考え方を。2番目に顔を。3番目に商品を売ります」。さぶちゃん通信は、会社の考え方と顔を売るための重要なツールだ。“顔出しマーケティング”は中小零細企業の基本だと松下さんは確信している。

価値を売る仕組み

パイロット製“ハイテックC”は0.3mmの極細ボールペンだ。「パートさんに、ボールペンの開発者に電話をさせます。『極細のボールを回転させるために、バイオテクノロジーを応用してインクの中に細菌を入れて・・・』。開発者の苦労を書いた説明文を商品の下に貼り付けると、スーパーで160円のボールペンを、うちから200円で買ってもらえます」
パート社員は面白いから何百種類の商品のメーカーに電話して、半年もしたら立派なスペシャリストになっている。おまけに来店客は商品より説明文に興味を引かれて読む。客の滞在時間が増えて店は繁盛しているように見える。

無駄だと思える商品が大事

コンビニやスーパーは、いかによく売れる商品を仕入れるかが勝負だが、松下さんは敢えて売れそうにない商品も仕入れる。「お客さんは買わなくても、商品を見て楽しんで喜んでくれますから、無駄と思える商品が大事です」。面白いことに、そんな商品の仕入れを続けていると時間はかかるが売れ始める。
「一瞬でも、田舎の店にいることを忘れてもらえたら僕の勝ちです」。高齢者の多い田舎で、文具店経営は本当に難しい。
地域に根を下ろした経営は、利益の最大化を目標とすることだけでは成り立たない。顧客を大切に、社員の雇用を守り、地域と苦楽を共にする会社でありたいという松下さんは、小さな田舎の大きな経営者だ。

君たるの道は必ず須らく先ず百姓を存すべし

聞き手の目を見据えて話す。大きな目は瞬きをほとんどしない。その説得力に圧倒された。松下さんは小学生の頃、体が弱く学校を休みがちで落ちこぼれだった。漢字が書けなかったし、算数の九九を覚えたのは中学だった。「経営者は元落ちこぼれの方がいいかもしれません。人の気持ちがよく分かりますから」

子どもの頃から読書好きで、30代に「貞観政要」を読んだ。「・・・君たるの道は必ず須らく先ず百姓を存すべし・・・とあります。会社で言えば『君』は社長で『百姓』は社員です。社長が社員より自分の利益を優先すると、自分のふくらはぎをムシャムシャ食べているのと同じだという教えに従って会社を経営しようと決めたんです」

※(貞観政要)
「貞観」は唐の2代皇帝・太宗の年号で、その平和で安定した治世は、唐王朝300年の基礎を固めた「貞観の治」と称される。「貞観政要」は太宗と名臣たちとの答集で、「書経」と並んで、帝王学の原典とされた。

松下 三郎

株式会社マツシタ

住所
香川県東かがわ市湊815-17
代表電話番号
0879-25-0118
社員数
27人
事業内容
文房具 事務用機器の卸および販売、パソコンスクール他、インターネット事業
資本金
2000万円
地図
確認日
2008.12.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ