経営も組合も、現場が基本です!

四国労働金庫 理事長 足達 秀夫さん

Interview

2008.09.04

四国電力安芸営業所に勤務していた足達秀夫さんは、気軽に引き受けた職場の組合専従から19年間、労働運動一筋のキャリアを歩み、昨年6月「四国労働金庫」のトップに就任した。
労働金庫も経営体だ。サラリーマンの組合離れ、団塊世代など金庫を支えた人たちの退職、また金融機関同士の競争など環境はとてつもなく厳しい・・・ 法令順守や内部管理体制の改善命令も受けた。 足達さんの責務は、四国労働金庫の使命を問い直して「必要とされる金庫」になるため、改革を果たすことだ。

※(組合専従)
労働組合と雇用主が協定を結び、組合の活動に専念するために職場を休職し、組合から給料分の手当てを受け取ることが認められている。復職も可能。

労働金庫

主に労働組合や生活協同組合などの団体が会員となる協同組織の福祉金融機関。運営は団体会員の代表者によって行われる。利用対象は会員である各組合などおよび勤労者で、組合員でない勤労者も個人として会員となることができる。また預金や為替などの取引は、非会員も利用することができる。株式会社の銀行と異なり、利益は会員や利用者に還元し、福祉金融機関として生活協同組合や福祉事業団体へも資金を供給している。

利用客が減っている

「誰でも利用出来るのに、組合員以外はダメだと思われているんです。組合や生協など主に大口会員向けの営業をしてきたわれわれのPR不足です」。今年広告予算を倍に増やした。「四国労働金庫を知ってもらい、使ってもらい、喜んでもらう。そして収益を確保します」。いままで、商売の当たり前が欠けていた。
会員の労働金庫利用率が下がり始めた。「労働運動を支え、労働金庫の経営を支えた団塊の世代が退職してどんどん遠のいていくんです」。そもそも組合の組織率が低下した。労働金庫の基盤が弱くなっているのだ。
しかしここ数年の収益は増えている。店舗の統廃合、経費や事務の効率化を図ってきたからだ。「会員からは金庫が遠くなったと言われます。組合OBの人たちにとっては、自分たちの想いで作った店舗が統廃合されるんです。『齢を取ったから新しい店までよう行きません、お付き合いをやめさせてもらいます』と言われたこともありました」。効率化が客足を遠のかせているところもある。

※(労働組合組織率の低下)
第二次世界大戦の直後は、サラリーマンの組合員比率(組織率)は60%以上あったが、2007年6月末には18 .1%まで下落した。
要因は、政府・地方公共団体などの社会保障制度が整備されたこと、バブル崩壊で企業の再構築が進み、統廃合・人員整理で労働組合が解散したことなどによる。

「日本労働金庫」の実現へ

改革できなかったら労働金庫に将来はない。経営基盤の強化などのため、全国の労働金庫を統合する「日本労働金庫(仮称)」の条件整備に取り組んでいる。
「全国13の労働金庫が、今のまま何もしなかったら近い将来半分は赤字に転落する可能性も・・・野村総研のシミュレーションの結果です」。労働金庫を一つに統合するか。それぞれの労働金庫の競争力を強化するか。生き延びる道は二つしかない。だから経営改革を果たして「日本労働金庫(仮称)」の実現を目指すのだ。

預金や融資を増やして収益を

四国労働金庫の経営陣(理事会)は、大口出資している会員(組合)の代表だ。23人の理事には出身組合それぞれの思いや事情がある。「理事には預金や融資を増やして収益をあげるため、経営判断をしていただきます。会員の個別事情は大事にしなければならないが、聞いてばかりでは、改革は進みません」。経営も組合も、シンプルに考えるのが足達流だ。
「金庫生え抜きの役職員の危機意識には、時として我々以上のものがあります」。・・・改革に正面から取り組む足達さんは、現場の苦労を誰よりも熟知している。

現場で学んだ仕事の鉄則

「四国電力に入社して最初の仕事は木こりでした。昔の電線は裸線で、伸びた樹木が触れたら停電しますから、電線に沿って虎刈りみたいに木を切っていくんです」。真夏の暑い盛り。ヘルメットをかぶりタオルを首に巻き、安全靴を履いて作業をした。重装備で汗が噴き出した。
「1週間で5キロぐらいやせました。木こりをするために電力へ入ったのではない。新入社員の僕が課長に文句を言いました」。でも、ギブアップはしなかった。
「20代の後半、胃潰瘍と十二指腸潰瘍を5回やりました。夢の中にも仕事が出てきました」。配電課の設計分担は用地交渉も絡む仕事だ。「電柱を立てて電線を張る。家が建ったり道路が出来ると邪魔になる電柱などが出てきます。 呼びつけられて、今日中に電柱を除けろと怒られることも度々でした」。怒られ続けて根性が座った。「怒られたらチャンスです。自分という人間を知ってもらえますから」。
経営も組合も基本は現場だ。「昨年27店舗すべて回りました。どんな環境でどんな人達が働いているのか。お客さんも大事ですが従業員も大事です。働く人達が安心できる職場環境を作ることはわたしの役割です」。経営トップになっても足達さんの視点は現場にある。

労働金庫の使命は福祉!

「時代の変化と共に、変えないかんものと変えたらいかんものがある。金庫の理念は変えたらいかん。商売の方法は変えないかんのです」。足達さんの信念だ。
 いまサラリーマンの8割は組合に入っていない。勤務年数など、労働金庫の貸付け条件を満たせない人が多くなってきた。「働いている人のための金融機関だから、その人達にも必要なお金を貸す役割を担うべきです」。
日本労働金庫構想が実現すれば経営基盤は強くなる。「利益の中から焦げ付くリスクを確保することができます。サラ金の多重債務になる人達の年収はほとんどが2百、3百万円以下で、融資が焦げ付いたときの問題もあるでしょうが、しかし貸せる仕組みを工夫するのがわれわれの務めです」。労働金庫の役割はもっとある。強い四国労働金庫を創って福祉金融機関の使命を果たす。足達さんが目指すものは変わらない・・・労金の理念そのものだ。

四国電力に39年間お世話になった。その内19年間は労働組合活動をした。

「組合活動と労金の理事長は、組合流に言えば、喧嘩を売る側から売られる側へ立場が逆転します。でも違和感はないんです。企業活動は労使が一体になることが絶対に必要ですから。利益配分に立場の違いはあったとしても・・・」。

足達 秀夫 | あだち ひでお

略歴
1947年 高知県香南市香我美町生まれ
1963年 四国電気高等学園入学
1966年 四国電力株式会社(高知支店)入社
1986年 四国電力労働組合高知県本部 書記長
1999年 日本労働組合総連合会 高知県連合会 会長
2005年 四国電力株式会社 退社
2005年 四国労働金庫常務理事
2007年 四国労働金庫理事長に就任

四国労働金庫

住所
香川県高松市浜ノ町72-3
代表電話番号
087-811-8000
設立
1952年
社員数
389人
事業内容
労働金庫法に基づく金融業務
出資金
30億1500万円
地図
URL
http://www.shikoku-rokin.or.jp
確認日
2008.09.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ