働く人に寄り添い「誰一人取り残さない」

四国ろうきん 理事長/杉本 宗之さん

Interview

2021.10.07

高松市浜ノ町の四国ろうきん本店

高松市浜ノ町の四国ろうきん本店

目先の利益にとらわれず

「家を建てたい」「車を買いたい」「子どもの教育費を何とかしたい」……。ろうきん(一般社団法人全国労働金庫協会)が掲げるのは「はたらく人のための金融機関」。事業目的の企業相手ではなく、労働組合の組合員など個人向けの融資に特化しているのが最大の特徴だ。

全国の地域ごとに13ある「ろうきん」のうち、四国4県をエリアとするのが四国ろうきん。一昨年6月、理事長に就任した杉本宗之さん(60)は、「ろうきんは『福祉金融機関』。働く人すべてに門戸を開き、誰一人として取り残されることなく金融サービスを受けられるようにするのが私たちの使命」と力強く語る。
「てとて」は四国ろうきんの女性応援プロジェクトから生まれた

「てとて」は四国ろうきんの女性応援プロジェクトから生まれた

四国ろうきんの利用者は中高年に多く、若者にはなじみが薄い。もっと身近な存在になろうと力を入れているのが「くるまローン」だ。車やバイクの購入、車庫の建設や免許を取るための費用に加え、モーターボートやジェットスキーなどマリンスポーツ関連の費用まで幅広く、無担保の低金利で支援する。今年2月からはテレビCMなどで一大キャンペーンを張り、「融資額は昨年の同じ時期と比べると倍増しました」

さらに8月には不妊治療にかかる費用を最大300万円まで融資する「妊活サポートローン・てとて」を始めた。女性職員の企画提案から生まれた新商品で、ネーミングには「手を取り合う夫婦から経済的な負担や不安を取り除きたい」という思いを込めた。全国のろうきんでも珍しい試みで、現在はLGBTや事実婚カップルなどへの支援が何かできないか思案中だ。「ろうきんは非営利組織。目先の利益にとらわれることなく、社会で暮らす様々な人に手を差し伸べられる金融機関でありたいと思っています」

エンジニアから労組へ

杉本さんは異色の経歴を持つ。元々は大手農業機械メーカーのエンジニアだった。「図面を引き、それが製品になっていく。喜びは大きかったですね」。30代の頃には、社運をかけて計画され、やがて大ヒット商品となった最新式トラクターの開発にも携わった。試行錯誤を重ね、軽量で高出力の新型エンジンを完成させたのち、突然声がかかった。

「労働組合の仕事をしてみないか」

正直、労組は嫌いだった。こっちは新製品を生み出そうと希望に燃え、寝る間を惜しんで働いているのに、「残業するな」「36協定を守れ」と釘を刺してくる。「最初はそんな気はさらさらありませんでした」。だが、ちょうどその頃、人事制度の変更でキャリアアップには他部署(労組も含む)経験が必須となったため、非専従を条件に引き受けることにした。これが人生の大きな転機になった。「どんどん面白くなり、のめり込んでいきましたね」

それまでは数字や図面、機械を相手にした仕事だった。でも、労組は180度違った。組合員の悩み相談にのったり、借金の返済を手伝ったりもした。「人間臭いことばかりでした」。味わったことのない経験もあった。「問題が解決すると、本人だけでなく、家族からも感謝されるんです。これは本当にうれしかったですね」

5年後の2000年、親交が深かった連合愛媛(日本労働組合総連合会愛媛県連合会)の会長に誘われ、副事務局長として39歳で連合愛媛に入り、その後17年間、会長まで務めた。

実は杉本さんは若い頃、ジャーナリストを目指していた時期があった。「70~80年代に起きたロッキードやリクルート事件で『国会の爆弾男』と呼ばれた同郷の野党議員の活躍の影響で、政治とそれを伝える側に興味を持ちました」。理系科目が得意だったためエンジニアの道に進んだが、「根っこのところで何か繋がっていた気がしますね」と苦笑する。

何でもいいから相談を

今年9月に新築・移転した観音寺支店=観音寺市坂本町

今年9月に新築・移転した観音寺支店=観音寺市坂本町

職員が安心して働き続けられるよう、四国ろうきんでは一昨年、女性が能力を発揮しやすい職場づくりに取り組む企業に与えられる「えるぼし(3段階目)」認定を受けた。さらに今年8月には、積極的に子育てをサポートしている企業の証「くるみんマーク」を取得した。杉本さんは、風通しの良い、多様性を認め合う職場にしたいと希望を語る。「職員には、『自我作古』の精神を持ちつつも、他者への思いやりが持てる人間に育ってほしいと思っています。座右の銘は『情けは人の為ならず』」

新型コロナ対策で急きょ設けた特別融資は250件を超える申し込みがあり、ここ最近は住宅ローン需要が落ち込んでいる。コロナ禍の影響の大きさを実感しつつ、「困ったことがあれば何でもいいから相談してほしい」と訴えかける。「できる限りの工夫をして応えていきたい。この先もずっと、働く人にひたすら寄り添う金融機関であり続けたいと思っています」

篠原 正樹

杉本 宗之|すぎもと むねゆき

略歴
1961年 福岡県生まれ
1985年 長崎大学工学部機械学科 卒業
     井関農機株式会社 入社
1995年 井関農機労働組合 非専従執行委員
2000年 連合愛媛 副事務局長
2005年 事務局長
2013年 会長
2017年 四国ろうきん 常務理事
2019年 理事長

四国ろうきん(四国労働金庫)

住所
香川県高松市浜ノ町72-3
代表電話番号
087-811-8000
設立
1952年5月
社員数
451人(男212人、女239人)(2021年3月末現在)
事業内容
預金・ローン・各種金融サービス等、労働金庫法に基づく金融業務 他
店舗数
四国内27店舗(インターネット支店含む)
地図
URL
https://www.shikoku-rokin.or.jp/
確認日
2021.10.07

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