船をいっぱいにした充実感
「当時、高松―宇野間は24時間運航をしていなかったから、朝一番の船を待つ間、トラックの運転手さんは営業所兼わが家の2階に宿泊していました。1階には切符売り場があって…」。子どもの頃から船は身近な存在だった。
入社した83年はフェリーが最も脚光を浴びていた時期で、24時間運航の高松―宇野だけではなく、高松―土庄、岡山―土庄、高松―神戸の航路があった。「夜中2時の便でも満席で、車の誘導は大変でした」。どうやったら効率よく積めるか、並んで待つ車を見て計算しながら1日で600台以上をさばく。「仮眠をとりながらの勤務は体力的には厳しかったけれど、船をいっぱいにしたという充実感がありました」
すべての航路を経験したことが今の財産になっているという。「現場を知っているからこそ、安全が何よりも大切だと身に染みて感じます。時間を気にするあまり問題が起こるのは本末転倒。お客様には丁寧に対応して安全運航すること。社員たちに常に言っています」
時代の変化の中で
社長に就任したのは事業を取り巻く環境が厳しくなった頃だった。「宇高航路をどう存続させればいいのかずっと悩んでいました」。一度は撤退も考えたが、会社の中心的な航路として長年続けてきた、生活の足としての意義も大きいと思い直した。競合会社は撤退し、現在は唯一残る宇高航路として1日5便で運航を続けている。
大変なことも多いが、「『苦難福門』という言葉を思い出すようにしています。困難から逃げずにいれば福が訪れる。苦しいことは楽しいことの前触れだと思っています」
宇高航路は厳しい状況だが、もう一つのメイン航路である高松―土庄便は、10年の瀬戸内国際芸術祭をきっかけに少しずつ観光客が増え始めた。最近では、インバウンド需要も増えている。これを機に、生まれ故郷である小豆島を拠点とした事業にも力を入れている。
14年には小豆島豊島フェリーをグループ企業にした。質の高いオリーブオイルで知られる小豆島オリーブもグループ化した。3月には、土庄港観光センターをリニューアル。小豆島のお土産販売のほか観光情報コーナーを設置したほか、レンタサイクルや手荷物預かりなど快適に観光できるサービスも提供している。
「経営というのは川の中にいるようなもの。何もしなければ流されてしまうし普通に頑張っても現状維持、それ以上に頑張らないと会社の存続は厳しい。海上輸送という本業はしっかり守りつつ、新しいことにも挑戦していきたい」
トラックで小豆島の魅力を発信
小豆島の魅力を発信する取り組みを続ける中で、「自分の会社だけがよければ、ではなくあらゆる業界の人が一つにならなければいけない」と痛感している。みんなで地域を活性化すれば、それが自社の利益につながる。そのため、交通機関も観光施設、ホテルなどが1つのチームになって全国に観光キャンペーンに行きたいと考えている。
「今年は瀬戸芸が開催され、また島が注目されると思います。ただ、それは一過性のもの。インバウンドもいつまで続くか分からないし、日本人観光客が減少しているのも気になります」。だからこそ、事業も地域活性化も先を見据えなければならない。「海上輸送という生活の足を守るためにも、5年後、10年後に向けていろんな種まきをしていきたいですね」
石川恭子
堀川 満弘 | ほりかわ みつひろ
- 略歴
- 1954年 小豆郡土庄町生まれ
1973年 岡山県立玉野高校 卒業
1977年 慶應義塾大学法学部 卒業
百十四銀行 入行
1983年 同行 退行
四国フェリー 入社
2002年 営業部部長
2010年 代表取締役専務
2011年 代表取締役副社長
2013年 代表取締役社長
2014年 小豆島豊島フェリー株式会社代表取締役社長
香川県旅客戦協会会長
18年 小豆島観光協会会長
四国フェリー株式会社
- 住所
- 香川県高松市サンポート8-28
- 代表電話番号
- 087-851-0131
- 設立
- 1956年
- 社員数
- 88人
- 事業内容
- 一般旅客定期航路事業
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