「三豊モデル」を全国に
事業を主導してきたのは、三豊市長・山下昭史さん(52)。地域の課題をAIで解決できないかと考え始めたのは、香川県議時代のことだった。「子どものころにぎやかだった町が、今では人が減って農業は衰退して…。このままではまずいと思っていました」。松尾教授を訪ねて話を聞き「多くの企業が悩む人手不足、また産業だけではなく農業、医療介護、あらゆる分野で課題解決に生かせる。AIには無限の可能性がある」と確信した。
まずはAI人材を育てたい。その仕組みづくりが動き始めたのは、三豊市長に就任してからだった。「域内に香川高専詫間キャンパスがあったことも幸運でした」。AIは、言葉を理解したり経験から学んだりといった人間の知的な作業を模倣したプログラムだが、それを生かすためには、例えば自動運転する「車」のようにプログラム=AIを搭載する「器」が必要だ。「その点で、ものづくりの技術がある香川高専と連携する意味は大きい。また、技術をもつ学生たちがAIを学べば将来、本当に活躍できる人材になる」
絶対にやると強い思いで臨んだ事業は、三豊市で開催された松尾教授の記念講演からわずか10カ月でMAiZMオープンまでこぎつけた。「市の職員がよくついてきてくれた。ただ、これはあくまでスタート」。今後は、AI人材を育てる講座を開催するほか、県内外から協賛社を集めて新技術開発につなげていく。将来的には株式会社にしたいと考えている。「有名企業からの問い合わせも増え、この事業には“投資価値がある”という認識が広がっている。手応えを感じます」
市民に喜ばれるだろうか
県議初当選から6年後、三豊市長に就任した。政策を打ち立て実現するために行動する。それは議員時代と変わらないが、「市民にプラスになるか、喜んでもらえるか」をより強く意識するようになった。「時には反対意見もあるかもしれない。でも、傷つくことを恐れて市民にとっていいと判断したことをやらないのは、政治家としての存在意義がない」
そんな山下さんがほかにも力を入れているのが「農業」。すでに、農作物の栽培データ管理や農作業のICT化を進め、AI技術の導入も視野に入れている。さらに新たな特産品を作りブランド化も目指している。考えているのは意外にも「生薬」だ。「農産物をブランド化するには最終的に“数”が必要になる。だから、ほかがやっている作物では土地が狭い香川は勝負できない」。生薬なら取り組んでいるところが少ない、健康志向を背景に漢方へのニーズは高く市場は大きい。まずは、三豊の土壌にどんな生薬が合うか専門家に調査してもらい、生産管理を模索していく。生産管理方法をデータ化してAIで分析すれば、だれでも栽培できるノウハウが蓄積できる。「知財」として収入源にもなるという。
「会社員時代から、自分が構想したものを形にするのは最高の喜び。生薬の話も最初は笑われることが多くて心が折れそうになりましたが、成功すれば地域の農業を変えられると思っています。だからどこよりも早くやりたいんです」
市民の「温度」を上げる
「AI、特産品、人気スポット…うちの町にはこれがある!と自慢できることがあれば、市民のモチベーションは全然違うと思います」。私は三豊市民だと誇りをもって言えるよう「シビックプライド」を醸成する。「そのために環境を整え、規制緩和し、地域の魅力を内外に広めていく。市民の気持ちの温度を上げることが、行政の役割だと思います」
石川恭子
山下 昭史 | やました あきし
- 略歴
- 1966年 三豊郡(現・三豊市)生まれ
1985年 丸亀高校 卒業
1990年 國學院大學経済学部 卒業
株式会社瀬戸内海放送 入社
2009年 同社退社
2011年 香川県議会議員(初当選)
2015年 香川県議会議員(2期目)
2017年 香川県議会議員を辞職
三豊市長就任
三豊市
- 所在地
- 三豊市高瀬町下勝間2373-1
TEL.0875-73-3001 - 総人口
- 6万2951人(推計人口・2019年4月1日現在)
- 世帯数
- 2万3114世帯(2019年4月1日現在)
- URL
- https://www.city.mitoyo.lg.jp/forms/top/top.aspx
- 確認日
- 2019.05.16
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