暮らしになじむ桶を作る

谷川木工芸 3代目 谷川 清さん

Interview

2019.11.21

谷川木工芸3代目の谷川清さん(左)と2代目の雅則さん

谷川木工芸3代目の谷川清さん(左)と2代目の雅則さん

11月1日、東京・渋谷にオープンした超高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」に、香川の伝統的工芸品「讃岐桶樽(さぬきおけだる)」が並んでいる。同ビルのテナントである中川政七商店が販売するもので、作っているのは谷川木工芸(三木町)だ。2代目・谷川雅則さん(65)は、讃岐桶樽の伝統工芸士の1人。2017年に家業に入った3代目の清さん(35)は「父の技術を守っていきたい」と話す。

細長い板を円筒形に並べて金属の輪で締め、底板を入れて桶や樽を作る。材料はスギやヒノキ。水や食べ物の持ち運びに使う桶は水分を吸収しやすい柾目板(木目が平行のもの)、酒やしょう油の貯蔵に使う樽は水分を吸収しにくい板目板(木目が波形や山形のもの)を使う。

谷川木工芸が作るのは湯桶、寿司桶、飯櫃(めしびつ)など。「浴槽を作ってほしい」、「大きな桶をひっくり返して、バーカウンターに使いたい」という注文もある。大きさは違っても、作り方は同じ。すき間ができないよう、木材一つ一つの角度を調整しながらつなげ、磨いて仕上げる。近くで見ても板の継ぎ目は分かりにくい。木をくり抜いて作る器よりも、欠けにくく強度が高いという。
湯桶(左)と片手桶

湯桶(左)と片手桶

清さんは高校卒業後、美容専門学校へ。美容室に就職したが「向いていない」と思い、ヘルパーの資格を取って介護施設に転職。10年経ち、管理職になったときに目標を達成してしまったと感じた。「自分で介護事業を立ち上げるか、まったく別のことを始めるか。何のために働くのかを考えました」

讃岐桶樽の技術を守っていきたい、経営に苦労してきた両親に少しでも楽をさせたいと思い、家業を継ぐと言ったところ、家族は猛反対。雅則さんはうれしい反面「子どもにはしんどい思いをさせたくない。家業を継いでほしいと思ったことは一度もなかった」と話す。讃岐桶樽の製造者は現在県内に2軒。雅則さんが20代の頃には10数軒あり、谷川木工芸にも10人近い働き手がいた。今は家族3人で切り盛りする。

清さんは「どんな仕事でも、人口が減れば先細りになる。それなら、今どん底のものを引き上げていくほうが面白い」と説得して、谷川木工芸に入った。夢の中でも桶を作っていたくらい、仕事を覚えるのに必死だった。ホームページをリニューアルし、SNSでの情報発信にも力を入れた。
讃岐弁「あのの」(左)と「まるいん」

讃岐弁「あのの」(左)と「まるいん」

早いうちに新商品を出したいと考えていた清さん。「お櫃にご飯を入れておいしいなら、そのままお弁当箱にしよう」と、作ったのが「讃岐弁」シリーズ。木地のままの「あのの」、ナチュラル塗装の「ほんでの」、中田漆木に協力を得た漆塗りの「漆の」の3種類を2018年に発売した。いずれも2段重ねで、おかずとご飯を別々に入れられる。今年発売したのが「まるいん」。従来のお櫃と異なり、丸みを帯びた一段のお弁当箱だ。小口が薄いため、中の食べ物がより映える。

「木で作った桶や樽は和のものだけれど洋にも合う。今の暮らしになじむものや、1つで何役もの役割を果たすものを作ってみたい。スマートフォンのスタンドがスピーカーになったり、持ち運べるケースにもなったり。パンを入れたらおいしくなるお櫃があってもいい」

雅則さんも「“桶はこうあるべき”というのはない。新しいものをどんどん作ってほしい」と応援している。
「讃岐弁」は木が水分を調節して、ご飯がべちゃべちゃにもパサパサにもならないという

「讃岐弁」は木が水分を調節して、ご飯がべちゃべちゃにもパサパサにもならないという

鎌田 佳子

谷川 清|たにかわ きよし

略歴
1984年 三木町生まれ
2003年 寒川高校 卒業
2005年 穴吹ビューティーカレッジ 卒業
介護職を経て
2017年 谷川木工芸 3代目

谷川木工芸

住所
香川県木田郡三木町下高岡1089-2
代表電話番号
087-898-0564
事業内容
讃岐桶樽の製造と販売
地図
URL
https://www.kinoibuki.com/
確認日
2019.11.12

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ