「オコメール」で 未開の新市場へ挑む

くりや 代表取締役 徳永 真悟さん

Interview

2014.08.07

東日本大震災直後、主力商品として自信を持っていた東北や関東のお米が納品できない状況になった。

外部環境や相場に振り回されていては、この先、生き残れないかもしれない。米穀卸、くりや代表取締役の德永真悟さん(44)は、リスクを分散させる重要性を痛感した。

そこで生まれたのが「オコメール」だ。縦23センチ、横11センチ、厚さ1センチの小さな袋にお米を詰めた。企業広告を袋に印刷しダイレクトメールとして送ることが出来る。ティッシュペーパーのように街頭で配ることも出来る。

明治15年創業の130年企業を率いて5年。先々代で義父の故・橋本正治さんには、「米屋にこだわる必要はない。大事なのは商売を続けることだ」と言われた。だからこそ、米屋を続けなければならないという思いが強くなった。

「物事を大局的に見る目を養いなさい」。義父が遺してくれた教えを胸に、德永さんは米穀業界の、その先を見つめる。

お米に気持ちを乗せて

くりやの売上は、外食産業などの業務用と量販店向けが約8割を占める。価格決定権は買い手側にあり、米卸業者同士での値引き競争が業界の日常だ。

転機は2011年3月の東日本大震災だった。東北や関東のお米が敬遠されるケースが続いた。卸問屋である以上、買い手や産地に頼る部分は大きい。しかし、「そうじゃないところでも何か出来ないかと常に考えていました。新たな市場で、自分たちで価格を決められる商品が出来ないかと」

12年6月、東京ビッグサイトで開かれた、ノベルティグッズや印刷サービスなどが一堂に出展する販促業界最大の商談専門展「販促エキスポ」。お米1合を真空パックした小さな袋を出品した。

「『小袋』のキーワードは、ずっと前から頭にありました。気分によって食べるお米を変えるとか、いろんな品種を食べ比べるとか。でも、食品の展示会に出展していたらその他大勢の中で埋もれていたと思います。食品業者がほとんど出展していない販促物の展示会というのが良かったですね」

白い小袋に、社員が墨文字で「ほんの気持ちです」とメッセージを書き、「気持ちをギュッとコメました」というキャッチコピーを付けた。真空パックしたお米に気持ちを乗せて配りませんかという提案に、来場していたアパレル業界や自動車ディーラーが反応した。大手広告代理店も食いついてきた。「墨一色しかダメなの?」「フルカラーには対応できる?」

これまで全く付き合いが無かった、未開の市場が開けた瞬間だった。

お米なら捨てられない

どんなデザインでも印刷できる「オコメール」。1合(150グラム)、2合(300グラム)の2サイズから選べる

どんなデザインでも印刷できる「オコメール」。1合(150グラム)、2合(300グラム)の2サイズから選べる

街角やイベントブースで、ティッシュペーパーやサンプル商品が配られる。そんな光景を見るたび、「後で捨てられるものも多いだろうな」と思っていた。同時に、日本の文化や日本人の心理から、「中身がお米だと絶対に捨てられない。お米は最強のノベルティグッズになる」と確信していた。

14年1月、企業広告を印刷し、顧客にダイレクトメールとして送ったり、イベントで来場者に配ったり出来る「オコメール」が誕生した。

これまでの米卸業での取引先だけに限らず、「年末のカレンダーや、タオル、雑貨などを販促物として利用しているお客さん・・・・・・すべてがお取引の対象になると思っています。全くお米と結びつかないような業界とも接点が生まれました」

レギュラー使用、キャンペーンでのスポット使用など、すでに約100社との取引実績がある。袋詰めするお米の銘柄も選べて、競合商品も無い「オコメール」は、500パック10万円から。価格は自分たちで決めた。

健全で堅実に

くりやは、約20の厳選した生産者との契約栽培など、全国各地からお米を仕入れている。現在、1日に15トン、年間で5000トンを取り扱うが、卸先は基本、四国4県に限定している。

「実は1度失敗しているんです」

かつては、広島県福山市などに営業所を構え、大手米卸業者の下請けという形で、多店舗を展開する大手量販店に卸していた。取扱高は大きく、売上は年々増えた。だが、典型的な薄利多売だった。「お金ばかり使って、しんどい思いをして、ほとんどもうからない・・・・・・経営のことが全く分かっていませんでした」

11年、その量販店が、国内最大手量販店に買収された。販売ルートが一夜にして断たれた。「直接取引していたら、倒産していたかもしれません」。下請けだったため、間に入っていた大手卸売業者が損失を被ってくれたが、「本当に怖い思いをしました」。得た教訓は大きかった。

「売上だけを追わず、顔の見えるお客様と健全で長いお取引を目指す。そして、四国の中で堅実にやっていく」

売上は当時の3分の1にまで減ったが、利益は上がった。

新工場で再スタート

「お米の味わいは非常に微妙で、この業界にいながらも、まだ食べたことのない品種はたくさんある。そう考えたら、もっともっとその違いや美味しさを伝えていかなければならないと思っています」

德永さんの実家は高松市の老舗料亭二蝶だ。跡取りの話もあったが、「米屋の娘さんと恋愛したので、米屋に永久就職しました」

全国各地のお米を食べ歩き、品質や食味をコンピューターで分析し数値化する。「ごはんソムリエ」として、ご飯の魅力を講演で語ることもある。「お米の世界は奥が深くて面白い。日本の歴史そのもので、すごくやりがいがあります」

今年、香川産の「おいでまい」が、日本穀物検定協会発表の食味ランキングで、四国産銘柄初の最高評価「特A」を獲得した。

「地元にも研究熱心な素晴らしい生産者さんがたくさんいます。売り手と作り手がチームを組んで知恵を出し合って、新しい地域ブランドが出来ないか、今模索しているところです」

現在、さぬき市に新工場を建設中だ。営業や管理部門を持つ本社と、生産・出荷の工場、離れていた2つの拠点を統合する。一つになれば、コミュニケーションも良くなり、新しいことにもスピード感を持ってチャレンジ出来る。

「社員が自信と誇りを持てる会社にしていきたい。そのためにも、お客さんにも来てもらえる工場にして、社員の仕事ぶりも見てもらって、安心してお取引してもらえればと。食堂も作って、いろんなお米の食べ比べも体感してほしいですね」

本格稼働は今年10月。秋の新米は、新工場で出荷する予定だ。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

徳永 真悟 | とくなが しんご

1970年6月7日 高松市生まれ
1988年 県立高松西高校 卒業
1991年 高松東魚市場 勤務
1994年 料亭二蝶 仕出し・魚仕入れ部門担当
1997年 くりや 入社
2009年 代表取締役 就任
写真
徳永 真悟 | とくなが しんご

くりや株式会社

事業所
本社:さぬき市津田町鶴羽778-26
TEL:0879-49-3388
フリーダイヤル:0120-088-968
創業
1882年
創立
1980年
資本金
2000万円
社員数
26名
事業内容
米穀小売・卸売業
地図
URL
http://www.kuriya.jp/
確認日
2018.03.15

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