地域への誇りが 最高のおもてなしを生む

香川県観光協会 会長 三矢 昌洋さん

Interview

2014.11.20

「きょうの団体さんは『チヤリコ』かい?」。昭和30~40年代、香川の観光業界でよく使われていた言葉だ。船で築港(チ)から高松に入り、玉藻公園を見て屋島(ヤ)へ向かう。そして、栗林公園(リ)から琴平、こんぴらさん(コ)へ。大人気の観光コースだった。

「当時、いわゆる老舗の観光地はいつもたくさんの人で賑わっていました」

時代は移り、今人気なのは瀬戸内の島々やアート、うどん巡りにお遍路さん・・・・・・香川の観光マップは大きく変わった。

今年5月、香川県観光協会会長に、観光旅館、喜代美山荘花樹海の三矢昌洋さんが就任した。老舗観光地の復活、観光地同士のコラボレーション、インバウンド(訪日外国人観光客)・・・・・・次々とキーワードを挙げながら、観光客を増やすための、そして来訪者に最高のおもてなしをするための方策を、三矢さんは熱く語る。

香川県観光協会
観光客や交流人口の拡大など香川県の観光事業振興を目的に、1970年代に発足した公益社団法人。

自分の町を語れますか?

「観光立県と言いながら、香川のどれだけの人が地元のことを知っていますか。どれだけ香川のことを語れますか」。三矢さんは強い口調で話す。

以前こんなことがあった。香川に転勤して来たある銀行の支店長がタクシーに乗った際、運転手に「この町の見どころは何でしょうか?」と尋ねた。すると、その運転手は「この町にはなんちゃ無いですよ」と答えたという。この話を聞いた時、三矢さんは腹が立って仕方がなかった。情けなくて仕方がなかった・・・・・・。

観光客を呼ぼうとするなら、まずはそこに暮らす人たちが町のことを知らなければならない。「市民にとっても決して他人ごとではない」というのが三矢さんの考えだ。知れば知るほど愛着がわく。自分の町をバカにされると腹が立つし、逆に町の良いところはみんなに自慢したくなる。愛着はプライドに変わる。地域に誇りを持ち自慢したいと思うことが観光風土を創る原点、「観光力」になる。「町のあのいわれ、知ってる?って人に言いたくなるでしょう?人気の観光地は押しなべて、そこに暮らす人が町について語れます。どれだけ自分の町を語れるかというのが観光力のバロメーターになると思うんです」

町を知るには勉強も必要だ。香川県立ミュージアムの学芸員をはじめとした講師陣を招き、市民や観光業界を対象に「町を知る講座」を開くことにした。「学芸員のみなさんは文化財などについて論文が書けるくらい一生懸命研究しています。じゃあちょっと町の人にも教えてあげてよ、とお願いしたんです」

温暖で災害も少ない。市街地と海が直結した特異な立地。そして何より、白砂青松、長汀曲浦の美しい瀬戸の風景。「観光は香川県の産業の大きな柱になる」。三矢さんはその確信から、長年、観光旅館業に身を投じ、今回、県観光協会の会長職を引き受けた。そして、こう言い切る。「観光客がいかに観光でお金を落としていってくれるか。それが私たち観光協会の通信簿なんです」

いかにして宿泊させるか

昨年の香川県の観光客数は917万人。瀬戸大橋が開通した1988年の1035万人に次ぐ数字だった。ここ数年、うどんや映画ロケ地ブーム、瀬戸内国際芸術祭などで観光客数は順調に推移している。しかし、三矢さんは顔をしかめる。「お金」が落ちていないからだ。

「観光客の7割以上が日帰り客です。日帰りの人はどのくらい使うと思いますか?6000円です。泊まりの人は約4倍の2万5000円です」。瀬戸大橋が架かり観光客は約2倍に増えたが、同時に橋が出来たことで「帰る人」も増えた。

いかにして滞在させるか。その一つの策が老舗観光地「チヤリコ」の復活だ。「どうしてもここ数年は、島しょ部のアートやうどん巡りなど新しい観光スポットに力が入っていました。栗林公園、こんぴらさん、それに小豆島などの老舗観光地は観光客数は伸びていませんが、それでもやはり宿泊客が多いんです」

では、どうやって人を呼ぶのか。あるアンケート調査によると、全国で栗林公園や屋島という観光地を知っている人は30%。つまり70%に存在自体が知られていないという。「栗林を『くりばやし』と読む人もいます。知ってて来ないんじゃない。だからPRも含め、『知られていない』という前提で戦略を練らなければなりません。ということは、逆に可能性は大きいと思います」

今の時代、「庭園美を楽しんでください」「屋島からの眺めはきれいですよ」だけでは来てくれない。「栗林公園には『食』が要ります。なぜ、石川県の兼六園が流行ると思いますか?寄観亭(きかんてい)という人気料理屋さんの存在も大きいと思います」。また、アートやうどんなど新しい観光素材とコラボレーションするという案もある。老舗観光地が活気づけばお金が落ちる。三矢さんが目論む方程式だ。

体に染みついた「おもてなし」

「土日に関わらず、時間が取れたら東から西まで動き回っています」。この間は、東かがわ市のランプロファイア岩脈を見てきた。白と黒の地質の縞模様が美しい岩場で、国の天然記念物でもある。「海からじゃないと見えないのでカヤックで行くんですよ。すごかったです。こんなところがあるのかと感動しました」。おむすび山にカンカン石に寒霞渓・・・・・・三矢さん曰く、「香川には全国的にも売り込める面白い地形がたくさんあります」

さらに最近注目しているのは「香川AKK」。島しょ部アートの「A」、環境の「K」は3年後に産廃処理が終わる予定の豊島を指す。「豊島はこれから食や民宿などが増えてくると思います。そうなると面白い地域になります」。もうひとつの「K」は健康だ。「希少糖にオリーブ・・・・・・いい素材はいくらでもあるんです」

人口減少時代に入り、今後の観光客数はどうしても自然減となる。日本政策投資銀行の報告によると、国内の宿泊観光市場は1994年をピークに、すでにゆるやかな減少が始まっているとしている。そういった動向から、三矢さんは約15年前からインバウンドの重要性を県や業界に訴え続けていた。「ようやくインバウンドが盛んになってきました。高松空港にLCCの成田便が入ったのも大きいです。これで欧米と高松がつながるわけですから」

妻の叔母から観光旅館を引き継いだのが30歳の時。当時高松には観光旅館が120軒あったが、町の都市化や効率重視の流れの中で多くがホテルに姿を変えた。今や高松の観光旅館はわずか2軒だ。それでも三矢さんは、ずっと旅館にこだわってきた。お客さんの「ありがとう」「また来るね」という言葉。おもてなしの精神やお客さんとのふれあいが何よりの喜びだった。「ホテルをやれば効率良くやれるんでしょうけど、耐えられないんですよ。旅館のもてなしが体に染みついているので」と笑う。

「香川は小さな県ですが、伝統文化や史跡など面白い素材がゴロゴロしています。まだ会長になりたてのほやほやですが、鳥の目で全体を俯瞰し、現地へ行って虫の目で細かく見て、香川の魅力を掘り起こしていこうと思っています」

三矢 昌洋 | みつや まさひろ

1944年 1月8日生まれ
1965年 東京理科大学電気工学科 卒業
    日本電気株式会社 入社
1981年 株式会社喜代美山荘 代表取締役社長
1990年 観光旅館花樹海 開業
2009年 高松まちなかおもてなし推進協議会会長
2011年 香川県ホテル旅館生活衛生同業組合理事長
2014年 株式会社喜代美山荘 代表取締役会長
    香川県観光協会会長
写真
三矢 昌洋 | みつや まさひろ

公益社団法人 香川県観光協会

住所
高松市番町4丁目1番10号
TEL:087-832-3377
FAX:087-861-4151
会員数
行政・民間計202会員(2013年3月末現在)
確認日
2018.01.04

政府登録国際観光旅館 喜代美山荘 花樹海

住所
香川県高松市西宝町3-5-10
代表電話番号
087-861-5580
設立
1990年
社員数
61人
事業内容
ホテル・旅館・宴会・婚礼・コンベンション
資本金
2000万円
地図
URL
http://www.hanajyukai.jp/
確認日
2018.01.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ