香川の2021年 新たな時代に何を伝えるか

Prime Person 新春スペシャル企画

Interview

2021.01.07

左から朝日新聞高松総局長 桝井政則さん、毎日新聞高松支局長 佐々木雅彦さん、日本経済新聞高松支局長 深田武志さん=高松市栗林町の栗林公園

左から朝日新聞高松総局長 桝井政則さん、毎日新聞高松支局長 佐々木雅彦さん、日本経済新聞高松支局長 深田武志さん=高松市栗林町の栗林公園

ビジネス香川では、新春スペシャル企画として、ビジネス香川を挟み込みでお届けするなど、日頃からつながりの深い各新聞社から、朝日新聞高松総局長の桝井政則さん、日本経済新聞高松支局長の深田武志さん、毎日新聞高松支局長の佐々木雅彦さんに集まってもらった。

着任以来、取材を通して香川をどのように見て、何を感じたのか。また、新型コロナウイルスによって社会が劇的に変化したといわれる中、香川で“変化の兆し”はあるのか。

鳥の目、虫の目、魚の目で社会を見つめる3人の報道マンが、2021年の香川について熱く語った。

取材を通して、香川はどんな風に見えていますか

桝井:コンテンツは魅力的で潜在能力もすごくある。ただそれがなかなか伝わり切っていない。PRがうまくないのかな。我々メディアもそうだが、ちゃんと全国発信していくような仕組みも大事。

佐々木:日本一小さな県だが、必要なものは揃っている。理想的なコンパクトシティで、気候もいいし住みやすい。

桝井:佐々木さんは家を構えていますものね?

佐々木さんは20代後半の高松支局勤務をきっかけに5年前、高松市内に一軒家を購入。本人曰く「香川を終の棲家にするつもり」

佐々木:27年前に3年間勤務した時はちょうど渇水もあり、水不足のリスクを痛感した。でも今は貯水池もできたし物価も安い。都会は歩くと人にぶつかるが、そういうこともないし、普段からモノがおいしく食べられる。人間らしい生活ができるのが香川。

桝井:高松は支店経済で外からの流入も多いので、閉鎖的ではなくオープンな感じ。この「暮らしやすさ」をうまく発信できれば。

深田:海と島の魅力は、他とはやっぱり違う。印象に残っているのは瀬戸内国際芸術祭。「芸術祭」と言っているけど、ただ作品を見せるのではなくて、その土地に洋服を着せてあげるようなところがあって「主役はあくまで土地」という独特な芸術祭ですよね。作品が置かれることで、海なり島なりの景色が引き立ち、また、そこに住んでいる人のおもてなしの気持ちみたいなものが引き出される。土地に力がないと、こういうことはできない。先ほど桝井さんが「オープン」だとおっしゃっていたけれど(ここの人は自分たちをオープンだと思っていないかもしれないけれど)、外から来た人に対して親切にできる人がいる。これも土地が持つ力の一つだと思う。

佐々木:瀬戸芸は「離島を楽しむ」というような新しい楽しみ方を定着させたのが非常によかったと思う。新しい文化をつくったと言ってもいいんじゃないかな。そういうのが記事で伝わればいいなと思いましたね。

コロナ禍に揺れる今の社会に何を感じ、何を伝えていきたいと考えていますか

コロナをプラスに変えていく 人間の知恵と力を見定める

コロナをプラスに変えていく
人間の知恵と力を見定める

桝井:強く感じたのは「コミュニケーション」の問題。リアルじゃないと実現できなかったことをどうやってオンラインで実現するか。例えば「雑談」。発想やイノベーションは雑談から生まれることが多い。でもオンラインは、10人参加だとしゃべっているのは1人で、残りの9人は聞いているだけ。これってものすごく苦痛で……(一同笑)。リアルに顔を合わせると、こっちは3人、そっちは2人、それがぐちゃぐちゃになって……と組み合わせが変わっていく。「じゃあ、オンラインで雑談してください」って言われてもできませんよね。

佐々木:取材で直接会って話を聞こうとしたら「電話にしてくれ」「オンラインにしてくれ」と言われることも多かった。取材というのは現場へ足を運んで、そこから人脈などが広がり、“ネタ元”が開拓されていく。そういう場がなくなったと、支局員が嘆いていた。

桝井:オンラインが当たり前の手段になり、例えば海外の人へのインタビューが簡単になった。取材方法の選択肢が広がったというメリットもある。

佐々木:報道の仕方で慎重を期したのは、無意識のうちに誰かを悪者にしないこと。そう捉えられるような記事になっていないか、特に注意しましたね。

深田:「窮して道が開ける」ということもある。コロナで出荷が止まり、東京に行くはずの瀬戸内の魚が余ってしまった。そこで、地元の水産会社が調理キットにして通販で売ったら、意外と人気商品になった。こういうことが起こってくるんだと思う。背中で扉を開けるというか。いろいろチャレンジしているうちに「あれっ?」と気づくことがある。気づいて大きく育てられるか。そういうところに注目して見ている。

桝井:コロナは厄災だが、前向きな動きもある。人間の知恵と力によって、どうプラスに変えていけるのかを見定め、意識的に記事にしていかなければと思う。

佐々木:今後どう変わるかは分からない。自分がいる場所から何が見えるか。コロナによって世の中がこう変わった、という兆しをどう見つけるか。それが記者の仕事。「変わりつつあるぞ」ということをいち早くキャッチしたいですね。

近年、地方の自治体では「移住促進」を声高に叫んでいる。瀬戸芸効果やコロナの影響もあり、香川でも移住の動きが活発になっています

「土地に力がある」 観察者として香川を見つめる

「土地に力がある」
観察者として香川を見つめる

深田:高松は評判がいいですよ。東京で「高松ファン」だと聞くことも多い。

桝井:でも「移住」ってなかなかハードルが高い。そこで「関係人口」という関わり方が大事になってきているという問題意識で、朝日新聞の香川県版では年始企画のテーマの核にしました。関係人口とは、移住した「定住人口」でも、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人たちと多様に関わる「ファン」のようなもの。関係人口として関わるような枠を広げることがこれからは大事だと思う。

深田:ファンをつくれば、間接的に関わる人がまた増えていく。「よそ者」「若者」「ばか者」の力を借りるというのは、昔から言われているが、それは今でも色褪せてはいない。よそ者と仕事をして香川をよくしていく、という意識を持てば、外から人がどんどん集まってくるんじゃないかな。

桝井:「ファン」を惹きつけ続ける「ファンサービス」も大事。香川には、先ほど話に出た離島もそうだし、魅力的なコンテンツがいろいろあると思う。

深田:景色がいいところがたくさんある。粟島の山の上とか、小豆島の寒霞渓の、もうちょっと先の一番高いところとか。「こんな景色があるんだ」と思う。紫雲出山の桜は全国でも指折りなのでは。「飯南の桃」もあんなにおいしい桃があるとは知らなかった。

佐々木:住んでいる人には当たり前すぎて気づかないものがたくさんある。うどんとか。他からすれば珍しいものに、外からの目線で気づいてもらい、うまい具合に発信できれば、香川の良さはもっと外へと広がっていく。

桝井:うどんとか瀬戸芸とかお遍路さんって地元の人たちは食傷気味で、紙面で取り上げても「もういいじゃん、それは」って思っているかもしれない。でも全国的にも関心は高いし、そういう“キャラクター”があるってものすごく大事。

佐々木:キャラが立っているって、幸せなことだと思う。何もない県もいっぱいあるし。

桝井:日本全体でどうしても人口は減っていくので、結局、人の奪い合いになる。奪い合いというか“育み合い”。まず自分のところで育てることと、あとは外から来てもらうこと。これから肝になると思う。

深田:瀬戸芸ができたんだから香川ならできますよ、やろうと思えば。あんなざん新なものはなかなかできない。

佐々木:実際に移住している人は多い。男木島も人口が増え学校が再開した。移住した人たちは、そこからまた自分たちのネットワークで発信するでしょうから、そういう人たちを大切にして。嫌になって、他に移られないようにしないとね。

コロナをきっかけに、働き方や暮らし方で都会との差がさらに広がるような、後れを取ってしまうような気もするのですが……何かアイデアはありますか?

深田:せっかくリモートが広がってきたんだから、それを活かすべき。こんなに住みやすいんだから、何かできるんじゃないのかなと思う。

佐々木:これを機に都会追随じゃないようなことをやってほしいですよね。都会は都会、ですから。

桝井:リモートに対応できるようなビジネススキルがうまく生み出せれば。リモートって無理しているところもあるので、それが自然体になるような。そこがイノベーションとして必要なのかなと。

深田:10年経てばリモートの環境も全然違うだろうし、今がチャンスだと思う。リモートで働きたい場所として、香川は全国的に見て上位にいることは確かだと思う。

桝井:例えばエンタメでは、アイドルの握手会も変わった。生で会っていたものを、オンラインで「お話会」みたいなものに切り替えて。握手はできないけれど、画面上だから顔が近い。リアルな握手会だと、他のファンとかが近くにいるけど、オンラインだと誰も聞いていないから、結構いろんな話ができて楽しいみたい。

佐々木:同じことはできなくなったけど、制約を逆手に取ったりして、アイデア次第で違うことができる。

桝井:オンラインだったら、一般の人と普段会えない人が会える。それこそ、知事と県民がオンライン飲み会で直接しゃべるようなこともできる。みんなウェルカムで。距離感なく、壁を取っ払うにはちょうどいい。行政とか積極的に使っていけばいいと思う。

深田:愛媛県が、県外の民間企業で働くITスキルに長けた人材を採用した。会社で働きながら副業的に、リモートワークで県のIT分野の業務にあたる。リモートを活用し、外の人を使うやり方はいいと思う。

佐々木:まさに「よそ者」の力を借りて。

深田:そうそう。自分たちで考えられることなんて、どうしても限られているし。

桝井:支店経済の香川には、いろんな人が出入りしているので、外の目を活かせられそう。地元の人が見過ごしていることに気づいてくれるかもしれない。

深田:そういった環境にも恵まれている。

佐々木:地元の人も、よその人の視点が持てれば、非常に楽しく日々を暮らせるんじゃないかなと思いますね。

コロナに翻弄される中、新年が幕を開けました。2021年、ここ香川からどんなニュースを発信したいと思っていますか?

“終の棲家”香川から 希望の兆しを発信する

“終の棲家”香川から
希望の兆しを発信する

桝井:明るい話で、香川の見出しが踊るようなニュースを発信したい。「全市町でパートナーシップ導入」など、“多様性”や“開かれている”という方向性で「香川がこんな風に日本をリードする形になった」といったニュースが出せれば、と思いますね。

佐々木:新聞記者は変化を見つけるのが仕事。頭の中だけで考えてあれやこれやと指摘するのではなく、人の中に入っていって、コロナで閉塞した世の中でも、希望が見える兆しのようなものを書きたいですね。

深田:私たちは「観察者」であり「拡声器」。「こんなに頑張っている人がいますよ」と声を大にして叫ぶのが務めなので、自分が暮らすこの場所から全国に向かって、「こんなことが起きていますよ」と発信するのは、やっぱり気持ちがいいものです。関係人口でも移住でも何でもいいけれど、「香川の観察者」として、“香川が全国1位!”みたいな記事をぜひとも出したいですね。

桝井 政則 | ますい まさのり

略歴
1968年大阪市生まれ。92年朝日新聞社入社。ジェンダーや性、演劇、伝統芸能などをテーマに取材。今注目するのは選択的夫婦別姓の議論の行方。横浜総局、大阪本社、東京本社などを経て2019年高松総局長

深田 武志 | ふかだ たけし

略歴
1965年鹿児島県生まれ。88年日本経済新聞社入社。株式市場や企業財務を担当する部署を長く経験。マネー報道部長、月刊誌日経マネー編集長などを経て2018年高松支局長。趣味は読書と散歩

佐々木 雅彦 | ささき まさひこ

略歴
1965年山口県生まれ。90年毎日新聞社入社。93年から3年間の高松支局時代は警察・司法、教育などを担当し94年の大渇水も取材。大阪社会部、おおさか支局長、福井支局長などを経て2019年高松支局長

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