
あなぶきアリーナ香川のメインアリーナ。左から 三村和馬さん、淀谷圭三郎さん、玉乃井欣樹さん=高松市サンポート
ビジネス香川恒例の新春スペシャル企画。今回は、新アリーナの管理を所管する香川県教育委員会の淀谷圭三郎教育長、管理運営などを担う指定管理者「香川アリーナコンソーシアム」のメンバー、穴吹エンタープライズの三村和馬社長、デュークの玉乃井欣樹社長に集まっていただいた。
収容人数は中四国最大級の1万人。音楽ライブにスポーツに展示会……単なる“施設”に留まらず、賑わい創出の拠点としても期待が寄せられる新アリーナは、地域に何をもたらすのだろうか。そのカギを握る3人が新アリーナのこれからを熱く語った。

南面から=香川県提供
「心を震わせる」環境を 子どもたちのために
三村:いよいよオープンが近づいてきた。指定管理者としては、ご利用いただく主催者やお客様の安心安全が第一。そこをしっかり担保しながら、デュークの玉乃井さんらと「コンソーシアム」という形で賑わいを創出していく。メンバーはプロフェッショナル揃いなので、その点は安心している。
玉乃井:当初、新体育館の候補地には県内のいろいろな場所があると聞いていたが、私の中ではサンポート一本だった。それがいよいよ形になり、私たちにとってはスタートラインに立ったところ。とてもワクワクしている。

淀谷 圭三郎さん(よどや けいざぶろう)
1963年高松市出身。香川県教育委員会教育長。
趣味は読書。愛読書は「男子の本懐」(城山三郎)、
「転落の歴史に何を見るか」(齋藤健)。
韓国ドラマがマイブーム。
座右の銘は「至誠通天」「雲外蒼天」
玉乃井:これまで香川最大のキャパシティは県民ホール(大ホール2001人)だったが、これからは新アリーナが四国最大級になる。全国的に見ても、ここまで主要駅にアクセスが良いアリーナはあまりない。四国の玄関口でもあるし、四国全体からの集客が可能になる。四国では今まで愛媛と徳島に5000人規模のアリーナしかなかったが、全国各地に対抗できるアリーナが香川にできた。それを今後どういう風に使っていくかというのはとても楽しみ。やはり5000人のキャパだと採算が合わないアーティストはかなりいるが、7000~8000人になると、どんどん来てくれるようになる。これからは全国を相手に日程の取り合いになるだろう。キャパの関係で“呼べなかった”アーティストを呼んでくるのが私たちの大きな使命だと思っている。
三村:MICE(企業などの会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関や学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)。多くの集客や交流が見込まれるビジネスイベント)の誘致にも力を入れたい。地域経済の潤いが間違いなく変わってくると思う。アイデアとしては、それらをツーリズム化すること。香川県は今、「観光」を政策の軸の一つにしているので、これをアリーナとどう繋げていけるか。全国のMICE施設が観光行政との連動に動き始めているので、それをいかに早く取り入れていけるかが、私たちの重要な仕事だと思っている。また、今年4月には神戸でもアリーナがオープンする。高松、神戸、横浜の3アリーナで「港町アリーナネットワーク」をつくりたい思いもある。コンサートやイベントなどで連携していければと考えている。
淀谷:コンソーシアムを構成する皆さんは、今まで次々とチャレンジングなことをやってこられた企業。私としては「香川にはそもそもこれだけのポテンシャルがあり、様々な挑戦を『許す土壌』があり、今までできなかったことをフロンティア的にやっていく気性のあるところ」だということを周囲にアピールしながら運用していってほしい。これまで日の目を見なかったアイデアをどんどん出していける環境が整ってきて、これからは一歩ずつ前進していけるのかなと。役所的な発想ではない中で大いに期待しているし、ある意味お願いもするし、どんどん応援していきたい。
“呼べなかった”アーティスト どんどん呼んでくるのが使命

玉乃井 欣樹さん(たまのい よしき)
1969年松山市出身。デューク代表取締役社長。
趣味はゴルフ旅。自己睡眠分析がマイブーム。
好きな映画は「ブルース・ブラザーズ」。
座右の銘は「明日は明日の風が吹く」
三村:香川には生島の総合運動公園や県立丸亀競技場があるが、アリーナは「室内競技の殿堂」という風に香川のスポーツ振興に資する施設に育てていきたい。そうなることでスポーツのレベルが上がることを期待したい。
玉乃井:ファイブアローズさんにもぜひ頑張ってほしいですね。
三村:千葉ジェッツにも来てほしい。渡邊雄太選手(三木町出身)をぜひとも地元で見たいですね。バスケットボールもバレーボールも卓球もそう、やはりトッププロのプレーを地元の人に見てもらいたい。お客さんが感動している姿を見て、私たち裏方がほくそ笑む。そうなればいいなあ。
淀谷:子どもたちに、「心を震わせる」ということがどういうものなのかを知ってほしい。そういう環境をこのアリーナからどんどんつくり出したい。そうなれば発想も豊かになるだろうし、挑戦する意欲もわいてくると思う。そこで、三村さんや玉乃井さんには「面白いやないか」「どんどんいこうぜ!」みたいな盛り上げをぜひお願いしたい。私は今ほど「民間の発想」が社会課題の解決に繋がる時期はないのではと思っている。例えば玉乃井さんには「エンターテインメントの世界は地方からでもしっかりと提供できるんだよ」ということを印象づけてほしいです。
玉乃井:若い世代が全国各地へ追いかけていくようなアーティスト、特に最近で言うとKポップアーティストは今まで四国にはあまり来ていないので、海外アーティストの招へいも積極的にやっていこうと思っています。
三村:アリーナのオープニングイベントに、総合格闘技「RIZIN(ライジン)」と「東京ガールズコレクション(TGC)」を予定している。実は私の腹には、若者が高校や大学を卒業後、県外に出ていくのを防ぎたいという思いがある。「おらがまち、すごいやん!」みたいな“シビックプライド”を持てば、地元に留まってくれるのではないだろうか。まあ一度は勉強のために外に出る必要はあると思うが、帰ってくるためにはやはり「まちが元気」じゃないと。アリーナはシビックプライドの起点になると思う。総合格闘技やTGCとか、若者にすごく刺さるんじゃないかな。
玉乃井:(昨年7月に松山でTGCがあり)おそらく三村さんは先を越されて悔しい思いをされていたのではないかと…(笑)
三村:いやいや(笑)。あの時は現場を見ながら、「これよりも絶対に良いものをやりたい」といろいろ戦略を立てていました。
淀谷:香川でもこういうことができるんだというのをみんなに見てもらいたいですね。
高松、神戸、横浜で 「港町アリーナネットワーク」を
三村:まちを“面”で繋げるためにも「エリアマネジメント」に取り組まなければならない。アリーナができて大学ができて外資系ホテルもできる。このタイミングを逃してはならない。私たちは施設の運営に加えてエリアマネジメントについても、アリーナはどう役割りを担うべきか、どういう方々と一緒に取り組みを進める必要があるのか……早々に着手したいと思っている。そうすることで“瀬戸の都・高松”の存在価値が高まり、ウォーカブルなまちづくりもできてくると思うし、市民、県民にとって「楽しいまち」になってくる。訪れる人も「なんか、高松良いよね」みたいな、そんなまちになっていくんじゃないかという気がする。
玉乃井:コンサートは多くの県外の方々が来県する。ホテルもどんどんできているが、オーバーフローすることも多いのが懸念材料。「MONSTER baSH(モンスターバッシュ)」のような屋内の音楽フェスを新アリーナから誕生させたいという思いもあるので、どんどん活性化が進んでくれれば。
淀谷:人やモノ、そういう交流が活発化することで様々な出会いや課題が生まれ、そこから突破口が見えてくるのかなと思っている。全ての政策分野に繋がるいろいろなヒントがあるんじゃないだろうか。
三村:私が一番やりたいのは、高松空港社長にも申し入れしたのが「2人でシティセールスに行きましょう」と。空港と交流推進施設(アリーナ)が一緒になって、海外にまちを売り込みに行く。瀬戸内の都市間競争じゃなくて、もう一段高い次元での競争を仕掛けていきませんかと。そこにぜひアリーナの設置者である県にもご一緒いただきたいなと。
淀谷:ものすごく素晴らしい試み。地方分権の議論の時から「都市間競争が激化する」と言われてきたが、競争相手が“日本国内じゃない”時代になってきている。海外のいろいろな都市との競争を、高松、香川もしていかないと。そういう発想で、官民一緒になってやる必要がありますよね。
「新アリーナ元年」はどのような年に?

三村 和馬さん(みむら かずま)
1971年岡山市出身。穴吹エンタープライズ代表取締役社長。
好きな映画は「八甲田山」「ラストサムライ」「壬生義士伝」他。
マイブームはNetflixの一気見。
座右の銘は「明日死ぬかのように生きろ、永遠に生きるかのように学べ」
玉乃井:アリーナによって、四国のエンタメは名実ともに高松が玄関口になっていくと思う。今年は我が社の創立50周年。その節目の年にアリーナがオープンするということで巡り合わせを感じるとともに、さらに次の50年を目指してギアを上げていこうと思っている。アリーナにとっても我が社にとっても、とても大切な1年になります。
淀谷:アリーナの存在は、広い意味では「地元への誇り」を高める意味合いが大きく、アリーナを舞台とした催しは、多くの人に感動をもたらしてくれる。その機会が増えるだけでもこれまでとは全く違うので、本当に今年は重要な年になると思う。アリーナを生かして地域をどうプロモーションしていくか。万博に瀬戸芸に、高校生たちの“青き春の集大成”の総文祭。盛りだくさんの年なので、それに心を震わせつつ、今後の地域公共政策、地域経営をどうやっていくか。いろんな人の知恵を借りながら、みんなが力を結集していく“元年”であってほしい。そして、これから成長していく子どもたちがいつか今年を振り返った時に「あ~、あの年ってこういう意味があったんだなあ」と思ってもらえる。そんな1年になればいいですね。

観客席のカラーリングは「海」や「オリーブ」をイメージ
篠原 正樹
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