
左から中條祐太さん、樋口憲一さん、黒川慎一朗さん=高松市古新町のリーガホテルゼスト高松1階ラウンジ「アルゴ」
「目指すは三豊のシリコンバレー」「生まれ育った東京を離れ、離島で農業」「大学で学んだ都市計画を地元で実践」……。
思い描く目標は様々だが、そこには「地域を盛り上げたい」という揺るぎない決意が共通する。彼らは地域にどんな魅力を感じ、なぜ舞台として選んだのか。熱い議論の中から、地域が持つ大きな可能性が見えてきた。
樋口:「大浜スイーツアカデミー」では“割れチョコ”を活用し、ケーキやチョコレートをつくる計画。なぜ小学校を購入したのかというと、そこに地域の雇用を生み出したいから。我が社が手掛けている通信事業とも連携し、防災や医療など、この地域の豊かな暮らしの実現を目指していきたい。
なぜ三豊市詫間町で?
中條:私の会社ではシンプルに農業をやっています。女木島の人口が減ってきているのを危惧し、樋口さんと同じく、「雇用を生んで人口増へ向けて発信していこう」と。キクラゲはコンテナで人工的に育てているので、島であっても栽培や資材の面で効率がいいんです。
樋口:「島が農業に向いている」というのではなく、人口増のために「農業」を選択した?
中條:そうです。人口減に伴って、荒れた畑も増えていて。景観を維持しつつ、雇用増と人口増を一緒にできればと。
なぜ女木島で?
黒川:まちづくりに興味があり、大学で「都市計画」を専攻していた。中でも、農村漁村の都市計画。徳島・神山町、宮崎・日南市、岡山・西粟倉村など、「移住」や「脱炭素」で注目を集める地方創生の先進地域を年間10カ所ぐらい現地調査し、「地域で何かをやる」ということにポジティブなイメージがあった。大学4年の帰省していた時に新型コロナが流行。大阪にも戻れないし、「じゃあ、このまま起業しようか」というのがきっかけ。“ラフな”感覚で始めました。
「うみの図書館」が話題になっている
「地域」でやってみての感想は?

樋口憲一さん「IT駆使し、暮らしを豊かに
目指すは三豊の『シリコンバレー化』」
黒川:食べるところや遊ぶところが少ないというのは同じ感覚です。行政の手が回らないことは多いし、だからこそ「自分たちでつくろう」と思った。知り合いが訪ねてきても連れていける良いランチの店がない。「じゃあ、おいしいピザ屋さんをつくろう」と。電車で志度まで行かないと本すら借りられない。「じゃあ、図書館をつくろう」と。今、図書館に週2ペースで通ってくれる高齢のおばあちゃんがいるんです。「つくってくれてありがとう。本当に良かった」と喜んでくれて、毎回本を1冊ずつ寄贈してくれるんです。
樋口:それ、すごいね。うれしいね!
中條:私が島に入って強く感じたのは、雇用を生む以前の問題。「住む場所がない」ことですね。今はその問題をどうにかしたい。不動産の相続や運用の仕方など、島の人たちと一緒に勉強しながらサポートするような団体を立ち上げて取り組みたい。賛同してくれる人も増えているので、一歩ずつ前に進めたら。
樋口:やっぱり仲間を引っ張ってこないとね。
中條:そうですね。外から内からも。Uターンを狙いたいです。
樋口:やり方はいっぱいありそう。
「地域を盛り上げたい」というエネルギーの源は?
黒川:私の行動のモチベーションは、「地元愛」よりも、好奇心とか、“実験したい”という欲が強いかもしれない。自分が立てた仮説をうまくできるかどうか試してみたい。「こうやったら民間でもできるんじゃないか」「こうやったら人が集まるんじゃないか」と。ロールプレイングゲームをやっているような感覚ですね。例えば「海辺の店の数を倍に増やす」とか、クエスト(クリアすべき課題)を設定して、一つずつクリアしていく。それが結果的に地域のためになるならとても良いと思う。
「好奇心」「実験」「ゲーム感覚」でチャレンジする黒川さん。ビジネスとして成り立っているのか?
“地域ビジネスの先輩”樋口さんに聞きたいことは?

黒川慎一朗さん「『RPG感覚』研ぎ澄まし
津田の“クエスト”クリアへ」
樋口:う~ん……。事業を始めた時から「絶対いける」という自信しかなかったので(一同笑)。ごめんなさい、答えになっていないですね。でも、先ほど黒川さんが話していた「ゲーム感覚」というのは私も同じで、その気持ちは良く分かる。自分の中では「仕事とプライベートを分ける必要はない」と思っていて、社員にも「一日の3分の1は仕事をするという人生を過ごすなら、『どうやったら楽しめるか』ゲーム感覚で考えよう」といつも話している。“実際”と“ゲーム”はよく似ていて、裏切りもあれば、思ってもみないことも起きる。プラスに行ったらマイナスにも転じる。このボラティリティ(変化の幅)こそ人生。ボラティリティを楽しむことができれば良いのかなぁと。だから、まだまだ若い中條さんや黒川さんが「クエストだ~!」と楽しそうにチャレンジしている姿を見るのはうれしい。その感情を絶やさず、真っ直ぐ進んでほしい。
地域でうまくやっていく秘訣は?
中條:私もそうです。そもそも、ネガティブに考えてしまうと、今やれていないと思う。
樋口:そうそう。みんなウェルカムで、良い人たちばかりです。
2024年の目標は?

中條祐太さん「コミュニティの強さを生かし
島に『人を呼ぶシステム』つくる」
樋口:私はやはり「三豊のシリコンバレー化」ですね。元IT大手の新しいメンバーも加わる予定。香川高専詫間キャンパス生など地域ともしっかり連携して、いろんなことにチャレンジしたい。カッコいい田舎、“イナカッコいい”を絶対に実現させます。
黒川:きょうの話を聞いただけでもいけそうな気がします。
樋口:構想は固まっているので、あとは着々と進めるだけです!
黒川:私が今力を入れているのは、津田の松原付近約1kmの通りの店舗を増やすサポート。元々5店舗だったが、昨年はピザ屋さんなど6店舗増えて11店舗に。これを15店舗ぐらいまでもっていきたい。そして、もう一つ大きな目標がある。まちづくりを、もっと大きな視点、大きなエリアで考えて……「津田-小豆島」の定期航路をつくりたいんです。今は姫路経由か高松経由が一番早いが、津田経由になれば数十分短縮できる。そうなれば、関西の人が小豆島を検索した時に「津田」が出てくる。これは大きなインパクトがある。5年後ぐらいを目標に何とか実現したい。私が挑む大きな“クエスト”です。
最後に改めて聞いた。「地域」の魅力とは―
中條:やはりコミュニティの強さが一番の魅力だと思う。コミュニケーションが希薄な今の時代、隣の人の顔も名前も知らずに日々を過ごすのは当たり前。でも女木島は違う。すれ違う人みんな顔なじみで、毎日「おはよう」から「おやすみ」まで、まるで一つの学校のよう。そういったものが不足している人には、ぜひ島に来てほしい。
SNS時代の真逆ですね?
樋口:地域の魅力……「三豊の何が?」「どこを?」と尋ねられても、言葉ではなかなか表現できない。360度良いんですよ。単純に、素直に。空気もきれいだし、水もきれいだし、人も良い。空を見上げれば鳥が飛んでいて、土を掘ったらミミズがいる……それが全てじゃないですかね。
篠原 正樹
中條 祐太 | ちゅうじょう ゆうた
- 1995年東京都三鷹市生まれ。2021年、高松市女木町の女木島で「合同会社鬼の畠」設立。趣味・特技はボードゲームと料理。好きな映画は「孤狼の血」
樋口 憲一 | ひぐち けんいち
- 1981年丸亀市生まれ。2015年、三豊市詫間町で「株式会社本気モード」設立。好きな映画は「ラーゲリより愛を込めて」。座右の銘は「有名無力 無名有力」
黒川 慎一朗 | くろかわ しんいちろう
- 1998年さぬき市生まれ。2020年、津田町で「株式会社ゲンナイ」設立。趣味はDIYで、愛読書は「贈与論」。座右の銘は「正しいことより面白いことを」
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