
先日、讃岐漆芸の作家さんの工房にお邪魔しました。私にとっての漆器の常識は、何かの行事の時に親が押入れの奥から恭しく取り出し、使った後は綺麗に拭きあげて薄い白い紙で包み、再び押入れの奥にしまうものでした。家にあったものが高級品とは思えませんが、普段使いするものではなく、まるで美術品の扱いです。ところが、その作家さん曰く、「小牧さんより上の世代は、そういう常識をお持ちですよね。でも、それは戦後の一時期、漆が不足して膠を混ぜていたせいなのです。漆だけのものと比べて壊れやすいので、より丁寧に扱う必要があったんですね。現代の漆だけで塗られた器は丈夫なので、洗ったあとにザッと拭いておけば大丈夫。どんどん使ってください!」とのこと。なんと、自分が古い常識に囚われていたため、漆器を普段使いするという素敵な生活を放棄していたなんて。その日、気に入った漆器を買って帰り、普段使いを始めたことは言うまでもありません。
日本酒でも私の常識が変わりました。日本酒は保管温度に繊細で、特に火入れをしていない生酒の常温保存など以ての外だと思っていました。ところが、行きつけの料理屋のご主人に、力強く醸された日本酒は長期常温保存に耐えて風味が増していくと教えられ、常温で置いた無濾過生原酒を飲ませて頂きました。その風味豊かなこと。端麗辛口とは正反対、口の中に豊かな旨味や酸味が拡がり、鼻にはどっしりとした香りが抜けていきます。旨い!思わず言葉が出ました。これまでの常識に囚われていては、決して味わえないお酒です。
新型コロナ下で家飲みの機会が増えましたが、最近は先日購入した漆器で、自宅の押入れに保管した無濾過生原酒を楽しんでいます。新たな常識を知ることで、日常生活が一つ豊かなものとなりました。
世の中にはまだまだ新しい常識があり、素敵な世界を見せてくれそうです。暖かくなり外出に良い季節となりました。新たな常識を探しに県内各地へ出掛けてみたいと思います。
小牧 義弘|こまき よしひろ
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