こんにゃく×希少糖 健康食品市場へ挑む

ハイスキー食品工業 社長 菱谷 龍二さん

Interview

2015.06.18

糖尿病や肥満を予防する画期的な食品が香川で生まれようとしている。仕掛け人は、こんにゃくを製造販売するハイスキー食品工業の菱谷龍二社長(59)だ。こんにゃくに希少糖を加えて作った原材料を混ぜることで、あらゆる食品が血糖値の上昇を抑える健康食品に変わるというのだ。

「おいしいものをたくさん食べて生活習慣病も防ぐことが出来る。こんにゃくは健康食品の原料として非常に有望です」

ハイスキー食品は1924年の創業以来、時代に合わせて常に姿を変えながら、90余年の歴史を歩んできた。

従来のこんにゃく製品市場から健康食品市場へ。こんにゃくが持つ可能性を信じ、菱谷さんは新たな舞台へと、大きく舵を切ろうとしている。

こんにゃく
サトイモ科のこんにゃくイモを粉末にして水を混ぜ、水酸化カルシウムなどのアルカリ成分を加えて固めるとこんにゃくになる。

相乗効果で血糖値抑える

「20年ほど前は、『栄養の無いこんにゃくなんかを食べてどうするんや』と言われていました。でも今は、それが健康的だという価値観になってきた。お腹いっぱい食べると次は、肥満や糖尿病の心配をしないといけませんから」

食物繊維が豊富で低カロリー。ダイエット食品としても注目されているこんにゃくの特性を生かそうと、菱谷さんは健康食品市場に目を付けた。希少糖を開発した香川大学との共同研究に一昨年から乗り出している。

研究では、(1)こんにゃくに希少糖を加えた食品とブドウ糖を一緒に摂取した場合、(2)希少糖とブドウ糖を一緒に摂取した場合、(3)ブドウ糖のみを摂取した場合、この3パターンで食後の血糖値を測定した。(1)のこんにゃくと希少糖を組み合わせたパターンが、他と比べて血糖値の上昇を大幅に抑えられることが分かった。

「希少糖D-プシコースには糖質の分解を抑え、糖の吸収を妨げる効果があります。こんにゃくの持つ特性と希少糖が相乗効果を生み、予想以上の結果が出ました」

食品に混ぜても本来の味とほとんど変わらない。こんにゃくと希少糖とのコラボレーションで生まれた新商品は、お菓子や調味料に加える機能性の高い食品原料として、食品メーカーなどとの商談が進んでいる。

「糖尿病患者さんにも臨床テストをやってもらいましたが、結果は極めて良好です。まさに、こんにゃくの新発見です」

この技術は国内の特許に加え、アメリカや中国の国際特許へも出願している。さらに現在は、脂肪の体内吸着を防ぐ機能を持った食品原料の開発を香川大学と共に進めている。「油でしっかり揚げたフライも脂肪を気にせず食べられる。こんにゃくと希少糖で、この抑制効果も出せるだろうと確信しています」
希少糖入りこんにゃくを使った「マンナンスムージー」。 とろみのある果肉ジュースをこんにゃくで再現している

希少糖入りこんにゃくを使った「マンナンスムージー」。
とろみのある果肉ジュースをこんにゃくで再現している

父が急逝、29歳で社長に

ハイスキー食品の創業当時の社名は、ヒシヤ飲料。ラムネやミカン水を扱う飲料メーカーだった。忙しい夏に比べて冬が閑散期となるため、冬場の副業として始めたのがこんにゃくの製造販売だった。

事業は徐々に飲料とこんにゃくの二本柱になり、1964年に社名が今のハイスキー食品工業になった。菱谷さんの父で2代目社長の恒広さんが、「はい、好きです」と皆に好かれる会社になろうという思いを込め、命名した。「父が遺してくれた大切な財産ですね」

70年代に入ると大手飲料メーカーやスーパーの台頭で小さな店は次々と淘汰された。ハイスキー食品でも飲料事業を縮小し、こんにゃく事業に軸足を移していった。

菱谷さんには忘れられない記憶がある。85年、恒広さんにがんが見つかり、わずか1カ月後に亡くなった。「まさか、という思いでした」。菱谷さんが入社してまだ4年ほど。心の準備も出来ていないまま、29歳で社長になった。

何をどうすればいいのか・・・・・・とにかく会社を守ることだけを考えた。

「当時は飲料とこんにゃくの両方をやっている過渡期でした。でも、こんにゃく一本に絞ることにしました」

この決断に、経理を担当していた母親が猛反対した。「母は、父が頑張って続けていた飲料も守りたかった。でも私は、次の手を打たないと会社がつぶれてしまうと思った。周りからは親不孝者と言われましたが、これだけは絶対にゆずれませんでした」

時はバブルの真っ只中。次々と店舗を増やしていく地元大手スーパーと良好な関係を築けたことで、売上は順調に伸びていった。

判断は間違っていなかった。しかし、いつも頭から離れないことがあった。「ただスーパーにくっついているだけで、私達に力があるわけじゃない。独自の商品を作り出していく力が無いと生き残れない・・・・・・」。この思いが商品開発の部署を立ち上げるきっかけとなり、今のハイスキー食品が持つ技術力に繋がっていった。

食を支える無限の可能性

「私達のような中小企業は特に、時代の市場環境に順応しないとやっていけません」

こんにゃくは特有の臭みや調理に手間がかかるといった理由で、家庭から敬遠されがちになってきた。おでんや煮物などに使われる従来のこんにゃく製品市場は全国で500億円程度と言われ、年々右肩下がりだ。

レンジで温めるスープ麺「マンナンヌードル」、まぐろの刺身そっくりの「マンナン漬けまぐろ」・・・・・・ハイスキー食品は、臭みの元になっているアルカリ成分をカットする技術や、トマトやイカスミなどの天然色素でこんにゃくに着色する技術を開発、特許も取得して、これまでとは一味違う加工食品を次々と生み出してきた。3年前に発売したレバ刺し風こんにゃく「マンナンレバー」は、飲食店で生レバーの提供が禁止された時期と重なり、全国的な大ヒット商品となった。

「こんにゃくの業界がライバルではありません。これからは健康をキーワードに、ニッチな部分を深く掘り下げていこうと思っています」

飲料事業から撤退して10年ほどが過ぎた頃、母親からこんな言葉をかけられた。「あの時は会社がつぶれると思った。でも反対を押し切って、よくやった」。その一言が何よりうれしかったと、菱谷さんはしみじみと語る。

父の跡を受け、社長になって今年でちょうど30年になる。

「赤ちゃんがお母さんのおっぱいを飲んだ後、とても幸せそうな顔をしますよね。食は心を豊かにし、優しくしてくれます。こんにゃくは、その食を支える無限の可能性を秘めている。これからも歩みを止めずにやっていこうと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

菱谷 龍二 | ひしたに りょうじ

1956年 三木町生まれ
    近畿大学理工学部を卒業後、他社で約1年の経験を積み、ハイスキー食品工業に入社
1985年 代表取締役社長 就任
写真
菱谷 龍二 | ひしたに りょうじ

ハイスキー食品工業株式会社

住所
木田郡三木町大字氷上219番地
TEL:087-898-1125
FAX:087-898-6027
物流センター(三木町)
チルド物流センター(高松市)
創業
1924年
資本金
1000万円
事業内容
こんにゃく製造・加工・販売、チルド食品卸 他
確認日
2018.01.04

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