
そうめん
土庄町の株式会社「甚助」は、大正時代から3代にわたってそうめんを作り続けてきた。佐伯有一社長(59)は「香川の小麦を扱う技術は日本一でしょう」と語る。
■400年の歴史
「このような方法で値段が決まる食べ物は、今となっては珍しいでしょう」。そうめんは1200年前に中国から奈良に伝わったといわれている。小豆島で製造が始まったのが約400年前と伝わる。
当時、伊勢神宮への参拝は庶民の憧れだった。その念願をかなえた島民が参拝からの帰り道、三輪のそうめん作りを目にした。「農業の閑散期にぴったりの仕事だ」と、技術を島へ持ち帰った。
雨の少ない瀬戸内の気候は、そうめんを乾燥させるのに適していた。寒すぎる地域だと凍ってしまうが、小豆島は温度湿度ともに最適だった。そして、何よりも原料の小麦、塩、水が豊富。農作業ができない冬場は、人や牛などの労力が余る。その労力を使って「冬はそうめん作り」という兼業スタイルが定着した。
■旬のある麺
そうめんとほかの麺類には大きな違いがある。それは「旬」があることだ。そうめんは、10月から翌年3月までの「寒の時期」に作る。「冬に作って夏に食べるという非常に特殊な食べ物で『極寒製』と呼ばれる最も寒い時期に作ったものが一番おいしいんです。期間限定だからこそいい。風鈴の音を聞きながら食べるのが、そうめんです。『夏が来たな』と季節を感じられる麺はほかにはないでしょう」
■産地ならではの風習

「島では『初すすり』といって、そうめんを食べさせていました。母親は安産を祈願して、出産前にそうめんを食べます。ご先祖様に供える風習もありました。生のそうめんを三つ編みのようにして仏壇に置くんです。どれも私が子どものころまでは当たり前にされていたこと。いま薄れていくのは寂しいですね」
産地ならではのユニークな風習だが、残念ながら今ではほとんど見られなくなった。「これだけ長い歴史のあるそうめんは、空腹を満たすだけの食べ物ではないんですね」
■小麦の力
小麦と塩と水。原料がシンプルだからこそ職人の腕が試される。「うどん文化があるからか、香川の麺はレベルが高い。香り、舌触り、のど越しなどに対するこだわりを皆さんお持ちです」。長い歴史のある産業にも少子高齢化の波は押し寄せる。「産業のない場所に未来はありません。そうめん作りは技術の習得が難しいと思います。技術を継承していける学校のような場所があればいいですね。若い人たちにも伝統のそうめん作りにどんどんチャレンジしてもらいたい。こんなに小さな島で、日本三大産地の一つに数えられるほど発展してきた産業なんですから」
県民が愛してやまないうどん。しかし、香川の麺はうどんだけではない。食欲のない暑い夏、そうめんならいくらでも食べられる、そんな経験をした人は多いはず。そうめんもまた、誰もが愛する郷土食だ。
伝統のそうめんと 充実のオリジナル商品

「黄金蔵糸(95g×9束・3千円など)」は小麦の配合にこだわった、香り高い麺が特長。デュラム小麦を使ったパスタや、炒め物に合う「素麺チャンプルー(2人前・580円)」などオリジナル商品は充実。ビールのお供になる「枝豆そうめん」を現在開発中だ。こだわりの麺以外にも、竹の器やつゆ、スープなどとのセット商品も人気で、インターネットで購入できる。
佐伯 有一 | さえき ゆういち
株式会社 甚助
- 住所
- 香川県小豆郡土庄町肥土山1797-10
- 代表電話番号
- 0879-62-1363
- 地図
- 確認日
- 2012.04.05
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