臨床検査で 地域の健康を支える

四国中検 会長 岡内 伸介さん

Interview

2015.10.01

病院での診察や健康診断で採取された血液や尿、これらの検体を調べることで糖尿病や肝臓病など様々な体の異常を見つけることが出来る。香川県内の医療機関で採取された検体の約75%が持ち込まれ、臨床検査を行っているのが、綾川町に本部がある四国中検だ。四国全体でもシェアトップの、約4割の検体が四国中検に集まってくる。

「我々の検査データに基づいて医師が診療します。最終的に判断するのは医師ですが、医療のスタートラインを担っているという自負があります」

元々、医薬品の製造業や卸業を営んでいた親会社の一部門として検査事業は立ち上がった。1965年に独立し今年でちょうど50年。創業から半世紀で四国トップシェアへと駆け上がったのは、祖父、父の後を継ぎ会社を引っ張ってきた岡内伸介会長(59)による企業合併(M&A)の手法だった。

スピードを最大の強みに

鳥インフルエンザ、エボラ出血熱、デング熱・・・世界中で次々と未知の病原体などによる感染症が見つかっている。「影の脅威」と岡内さんは表現する。

「我々の検査センターや提携しているセンターには、エボラ出血熱などに類するウイルス検査が出来る技術があります。我々が直接治療するわけではありませんが、正確でスピーディーな検査が求められています」

大学病院や総合病院ではほとんどが自前の検査設備を持っている。だが、個人病院はコスト面などから外部に委託するのが一般的だ。四国中検では県内に約800ある医療機関のうち、約600施設の臨床検査を請け負っている。「現在は総合病院などでも検査は外注してコストを抑え、治療に専念していこうという大きな医療行政の流れがあります」

四国中検では、四国4県に配備された社員が一日に数回、提携している医療機関を訪ね、血液や尿、便などを回収。持ち帰った検体は最新の検査機器にかけられる。検査手法は目視判定やDNAの配列解析など多くの種類があり、蛋白質、尿酸、中性脂肪など500を超える項目を調べられる。「早く結果を知って早く治療を始めたいというのはどこの医療機関も同じです。検査結果が正確なのは当たり前。最も要求されるのはスピードです」

四国中検は、そのスピードを強みに四国でシェアを伸ばしてきた。迅速な検査を可能にしたのは4県全てに検査センターを持っていること。検体を速やかに持ち帰って検査出来る。「県外にしかセンターを持たない同業者と差別化する非常に大きな要素です」

各県にセンターを持てたのには理由がある。岡内さんが積極的に行ってきたM&Aだ。
臨床検査の様子。検体回収の翌日には、ほぼすべての検査結果が出る

臨床検査の様子。検体回収の翌日には、ほぼすべての検査結果が出る

好循環を生んだM&A

「四国の中核の検査センターになりたいとずっと思っていました。ですが、新規で進出したことはありません」

1990年代以降、四国各県にある臨床検査を手掛ける地元企業と次々と合併してきた。高知では臨床細菌高知研究所と、愛媛では中予臨床検査センターと、徳島ではグループ会社だった弘和薬品の検査部門を譲り受けた。どの会社とどういう条件で合併するのかを判断してきたのが岡内さんだった。「経営状況はどうなのか、合併後にどのくらいの収益性が見込めるのか、材料はいくつもありますが、最大のポイントは相手先をいくらで評価するかです。合併したいと思っていた企業を、お金のある別の企業に持っていかれたこともありました」

岡内さんは合併した会社のやり方や人員にほとんど手を加えなかった。社名もそのまま残した。「通常だと一挙に本社機能を集約して人も減らして効率化を図ります。でも、それぞれが地域に密着してやってきた企業。良いところはお互いにプラスしていける合併にしたかった。地元の良さも残して、各県の検査室の機能も継続させたいと思ったんです」

検査機能やシステムを統合しなかったことで、それぞれで検査を完結させることが出来た。各県で検査拠点を構え、検体の回収から検査結果を出すまでの時間を短縮したことで、提携先が飛躍的に増えた。「検査数が増えるにつれデータもたまっていきました。データが多ければ多いほど異常値の発見など精度が上がる。大きな病院にも引けを取らないくらいのデータが蓄積出来ていると思います」

独自のやり方のM&Aが好循環を生み、他社の追随を許さないトップシェアを確立した。検査結果に「おかしな数値が出た」とコメントを付けて返す。医師がびっくりして再検査し、すぐさま治療が始まったという例も少なくない。「患者さんに少しでもプラスになることで感謝されるのはうれしいですし、社員のやりがいにも繋がりますね」。岡内さんは目を細める。「ここまでやって来られたのも、必死で支えてくれる多くの社員がいたからだと思っています」

困っている人を救いたい

明治から昭和にかけて、名薬と呼ばれた薬があった。頭痛や食あたりに効果があるとして全国的に知られた家庭用常備薬「千金丹」だ。千金丹を作ったのが四国中検の母体、1875年創業の岡内勧弘堂だ。

勧弘堂の3代目で岡内さんの祖父・昌三氏が戦後、民間病院開業の流れに目を付け、臨床検査の需要を見込んで事業に乗り出したのが四国中検の始まりだ。

岡内さんが入社したのは1985年。当時は本体の岡内勧弘堂の業績が悪く、グループで約10億円の借金を抱えていたという。「この会社、つぶれるんちゃうかなと思いました」

会社の再建が入社してすぐの岡内さんの至上命題となった。「売上を上げて経費を減らす。ただそれだけです。何から何まで削りました」。時はバブル。銀行がお金を貸してくれたのが唯一の救いだった。自宅などあらゆる資産を抵当に入れ、かき集めた資金でM&Aなどを進めた。次々と社員が辞めたが補充する余裕は無く、5年をかけてようやく借金を返済した。「会社はきれいごとだけじゃやっていけないと学びました。厳しいことも試練として受け止め、現実を直視する。借金まみれのスタートも今では良い経験だったと思っています」

一昨年、岡内さんは会長になった。4代目社長に任命した森塚拡平さんは、創業以来初めてのたたき上げの社長だ。「いつまでも同族経営でいいのかとずっと考えていました。変化の激しい医療業界、我々もいろんな血や知恵を入れて変わっていかねばなりません」

これまでは医療分野の検査が中心だったが、残留農薬や添加物を調べる食品分野にも領域を拡大している。「TPPで輸入食品がどんどん入って来るようになれば、検査の需要が爆発的に増えるのではないかと思っています」

祖父、父から引き継いだ社是に「奉仕の心」とある。「見えていないものを見るのが検査です。困っている人を検査で一人でも多く救いたい。それが地域医療への貢献に繋がり、地元にある検査センターの存在意義に繋がっていくと思っています」

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

岡内 伸介 | おかうち しんすけ

1956年 東京都生まれ
1982年 株式会社三星堂 入社
1985年 株式会社四国中検 入社
1990年 常務取締役
1995年 専務取締役
2000年 代表取締役社長
2013年 代表取締役会長
写真
岡内 伸介 | おかうち しんすけ

株式会社 四国中検

住所
綾歌郡綾川町畑田3322
TEL:087-877-0111
FAX:087-877-1144
設立
1965年11月
資本金
2800万円
従業員数
370人
事業内容
臨床検査・食品検査
事業エリア
香川県・愛媛県・高知県・徳島県
沿革
1963年 岡内勧弘堂の一部門として創業
1965年 岡内臨床検査センターとして法人化
1978年 四国中検と商号変更
1993年 臨床細菌高知研究所と合併
1997年 中予臨床検査センターと合併
2001年 四国中検徳島検査所を設立
2006年 四国細胞病理センターと提携
確認日
2018.01.04

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