明かりに包まれる 贅沢な時間

ろうそく屋ホホ 安部 美紀さん

Interview

2015.11.05

「響きが良くて簡単で、声に出すと力が抜けてほっとする。それでホホにしました」。今年2月に高松でオープンしたろうそく屋ホホ。店主は神戸からUターンした安部美紀さん(29)だ。「キャンドルはおしゃれな感じがするので、あえてろうそくと呼んでいます。普段から気軽に使ってほしいですね。ぴしっと片付いた部屋でなくても、ろうそくをともせば景色が変わりますよ」
生活の中で使われている道具が好きだ。ものづくりをするなら用途があるものがいいと言う。高校・短大と建築を学んで就職活動も建築関係を中心に行ったが、どこか違和感があった。「自分の手で1から10まで作れないことにモヤモヤしていました」。そんな時、友人から誕生日プレゼントにもらったのがろうそくだった。「なぜかろうそくばかり集まってきて。自分でも作ってみようと思ったのが始まりですね」。火をつけて明かりにする。ろうそくは用途が明確だ。

24歳の時に神戸の元町でろうそく屋ホホをオープン。口コミでお客さんは順調に増えた。「新しいものに敏感なまちだから、いろんな人が来てくれました。当時はろうそく専門店が珍しく、新鮮だったのかもしれません」。手狭になり郊外に広い店舗を持ったが、だんだんと家賃のために働いているような気持ちになってしまった。

「小さなところでやり直そうかなって父親に話すと、それなら一度香川に帰って仕切り直せばいいと言われて」。父とは子どものころ、絵を描いたりものを作ったりして遊んだ。ダンボールでギターのレプリカを作ったことを覚えている。光沢が出るようにニスを塗って仕上げた。「父親の言葉にはっとしました。神戸にこだわる必要はないんだと気付きましたね」。約10年過ごした神戸を離れ、2014年2月に香川へ帰ってきた。
ろうに顔料を混ぜてろうそくを作る。色は作りながらその時の気分で決めている。こだわるのは、光が柔らかく反射するように仕上げた表面の質感だ。触れた時には手になじむ。円柱形はバランスよくろうが溶けていく。時間とともに溶けて変化する形を楽しんでもらうため、シンプルに作る。香りも付けない。「最初からいろんな形に作ったり細工をしすぎたりすると、変化が分かりにくい。シンプルだからこそ面白いと思います」

オーダーメイドやリメイクも受け付けている。神戸にいた時はかやぶき屋根の職人から、古民家を見て感じたことをろうそくにしてほしいと頼まれた。両親の結婚式で使った思い出のメモリアルキャンドルを、娘さんの結婚式用に作り直したこともある。使って小さくなったろうそくを集めて、リサイクルろうそくも作る。

ご飯を食べる時やお風呂に入る時にろうそくをともすのが、安部さんお薦めの使い方だ。いつもの行動が単なる作業ではなくなり、ゆったり過ごすことが出来るそうだ。「あっという間に過ぎていく日常も、ろうそくをともすとその時間が濃厚になります。忙しい時にこそ試してほしいですね。切り替えのきっかけにもなると思います」

東日本大震災が起きた後、東京在住のお客さんからホホのろうそくをともすことで癒やされたという話を聞いた。

「家に帰ったらテレビをつけるのではなくて、まずろうそくをともす。そういう生活をする人が増えたらいいな。贅沢な時間の使い方だと思います。ろうそく屋という存在がまちに定着したらうれしい」。自分が作ったものを直接お客さんに渡せる場所がある。そう思うと創作意欲も湧いてくる。

「ホホは微笑みから取ったというのはあと付けなんですよ」と安部さんは言うけれど、その名を口にするだけで笑みがこぼれる。温かく優しい光に包まれる店内は、そんな雰囲気だ。ホホは人を笑顔にする魔法の言葉かもしれない。

安部 美紀 | あべ みき

1986年5月 さぬき市生まれ
2005年3月 高松工芸高等学校 卒業
2007年3月 神戸文化短期大学 卒業
2010年5月 神戸で「ろうそく屋ホホ」オープン
写真
安部 美紀 | あべ みき

ろうそく屋ホホ

住所
高松市観光町536 ひだまりアパートメント7号室
確認日
2018.01.04

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ