ものづくりの魅力 「産業観光」で次世代へ

川上板金工業所 社長 川上 正城さん

Interview

2022.09.01

「クローザールーフ」をはじめ、様々な「グッドデザイン賞」受賞商品を展示・紹介する「グッドデザインミュージアム」=まんのう町四条の川上板金工業所

「クローザールーフ」をはじめ、様々な「グッドデザイン賞」受賞商品を展示・紹介する「グッドデザインミュージアム」=まんのう町四条の川上板金工業所

“現場”を観光スポットに

金属製の屋根材を製造開発する川上板金工業所。四国4県を中心とした西日本をエリアに、商業施設、公共施設、工場や倉庫など様々な建物の「頑丈で高機能な屋根」を手がけている。
2013年に社長に就いた川上正城さん(55)は「ものづくり」が何よりの生きがい。「幾多の苦難と困難を乗り越えて完成へと辿り着く。その時の喜びはたまらないものがあります」
「やね屋プロジェクト」の一つ、「紙育」の様子

「やね屋プロジェクト」の一つ、「紙育」の様子

ものづくりの魅力をたくさんの人に知ってほしい。川上さんは昨年、新工場ができたのを機に、『やね屋プロジェクト』を始めた。これまで培ってきたノウハウや技術力を外に向けて発信していこうというもので、柱は3本。1本目の柱は『職場体験型の工場見学』だ。全国各地から企業や団体を招き、社員が“添乗員”となって、生産現場、製造ライン、産業製品などを紹介する。「新たに工場をつくろうとしている業者さんや、時には同業者さんが来ることもあります」

工場見学のメインターゲットは「子どもたちです」。小中学生にも足を運んでもらい、『紙(るび:かみ)育』『屋根育』と題し、見学に加えてものづくりも体験してもらう。毎週金曜日には地元高校の生徒が就業体験に訪れたり、地元中学校で出前講座をしたりと、人的交流も行いながら『紙育』『屋根育』は拡大し続けている。「若い頃にものづくりに触れ、知的好奇心を満たすことはとても大切。長い目で見て、業界の人手不足解消の一助になれば、と期待しています」
昨年まんのう町に完成した新工場。 屋根材にはグッドデザイン賞を受賞したクローザーシリーズ「アドバンス」を使用

昨年まんのう町に完成した新工場。
屋根材にはグッドデザイン賞を受賞したクローザーシリーズ「アドバンス」を使用

2本目、3本目の柱は『板金ミュージアム』と『グッドデザインミュージアム』。ともに工場敷地内にショールームを設けた。

『板金ミュージアム』では、戦前戦後に使用された工具や機械など、歴史的・文化的価値のある産業遺産や、金属屋根の変遷や構造を説明するパネルなどを展示。川上板金工業所が過去に4度受賞した「グッドデザイン賞」について紹介している『グッドデザインミュージアム』では、「お〜いお茶」「木工用ボンド」「『はらぺこあおむし』の絵本」などジャンルを問わず、これまでグッドデザイン賞を受賞した様々な商品の展示のほか、建物内に隠された「グッドデザイン」を探す『グッドデザインを探せ』コーナーなどユニークな仕かけもある。川上さんは「これからは『産業観光』にも力を入れていきたい。“ものづくりの現場”を観光スポットとして育てたいですね」と目を輝かせる。

後始末から始まる次の一歩

創業者の祖父は、皇居新宮殿の屋根葺き工事を手がけるなど名の知れた職人だった。しかし、「すごいおじいさんだなあ」と感心しつつも、「実は家業を継ぐ気はなかったんです」と笑う。

大学卒業後は大阪のゼネコンに入社。マンション建設などにやりがいを感じ、「そのままずっと勤めるつもりでした」。だが、先代の父や母から「帰ってきて手伝ってくれ」と懇願され悩みに悩み抜いた末、26歳で帰郷した。だが戻って来た途端、目が点になった。

「いわゆる田舎の町工場。足の踏み場もないほど物が散らかっていて。しかも“やんちゃ”な社員ばかりで……」

川上さんはまず、倫理観、道徳観から立て直すことにした。「整理」「整頓」「清掃」「清潔」を徹底し、「挨拶」「返事」「後始末」を繰り返し呼びかけた。「『後始末』にもいろいろな意味があります。不要なものを処分する、心を整理する……後始末がきちんとできていれば、“次の一歩”を踏み出しやすくなります」
朝礼も始めた。「活力朝礼」は単なる連絡・報告の場ではなく、「社員の思いを一つにする場、イキイキと仕事をするためのウォーミングアップの場になるよう心がけました」。最初は欠席したり遅刻したりする者ばかり。「私だけが一人で勝手にやっている、とも言われました。でも、へこたれずコツコツ続けました」。すると、少しずつ変わっていった。やがて2分前には全員揃うようになり、「仕事に取り組む姿勢も変わっていきました。始めてから10年以上かかりましたが……ようやく“一つになりつつある”と感じています」

“屋根一筋”で磨きをかける

2004年に相次いだ台風被害をきっかけに開発した「クローザールーフ」。屋根の頂点部分と斜面2カ所を“3点接合”する独自の工法で看板商品となり、自然災害に強い「クローザーシリーズ」として今も進化を続けている。川上板金工業所は外壁や外装も手がけるが、「これからも“屋根一筋”の精神で磨きをかけていく。それが会社を成長させるベースになると思っています」

自然環境も目まぐるしく変化する現在、川上さんは「その時代その時代に適した一番のものをつくっていきたい」と決意を語る。「いつの時代も雨や風をしのぐシェルターとして、建物が人の暮らしを守ってきた。『その建物を守るのが屋根なんだ』という自負を持って、これからも社員たちと一緒に頑張っていこうと思っています」

篠原 正樹

川上 正城 | かわかみ まさき

1967年3月 琴平町生まれ
1989年3月 福山大学工学部建築学科 卒業
1989年4月 株式会社森組 入社
1993年5月 有限会社川上板金工業所 入社
2013年1月 株式会社川上板金工業所 代表取締役 就任
写真
川上 正城 | かわかみ まさき

株式会社川上板金工業所

住所
香川県まんのう町四条858-1
代表電話番号
0877-75-5156
社員数
55人(協力業者25社・120人)
事業の概要
金属製屋根工事業・設計・製造・販売・施工
地図
URL
http://www.kawakamibankin.co.jp/index.html
確認日
2022.09.01

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