地域とともに25年 苦しい時こそ“攻め”の姿勢で

遊食房屋 社長 宮下 昌典 さん

Interview

2024.11.07

「江戸小路 鮮 遊食房屋」丸亀店=丸亀市西平山町

「江戸小路 鮮 遊食房屋」丸亀店=丸亀市西平山町

女性と子どもに優しい店づくり

先月、開業25周年を迎えた「遊食房屋」。瀬戸内エリア有数の郊外型和食店だ。

社長の宮下昌典さん(54)が掲げるコンセプトは「女性と子どもに優しい店づくり」。地元を中心とした旬の食材で季節に応じたメニューを構成、京都・祇園の町並みを再現した店内では柔らかな和の曲が流れ、手入れの行き届いた庭園の緑も楽しめる。授乳スペース付きの多目的トイレやキッズルームを設けた店舗もある。「女性と子どもがファンになってくれると、ご主人も一緒に来店してくれるようになります。そうなると次はご主人が『あのお店、良いよね』と職場の仲間と来てくれる。好循環が生まれるんです」
慶事会席

慶事会席

女性客の定着に奏功したのは「ランチ」の導入だ。

「このタイプの店でランチをやっているところはほとんどないですね」

さらに近年ではバリアフリーにも力を入れる。「座敷に座るのがつらいお年寄りには低めのテーブル席を。車イスの高さに合わせたテーブル席もあります」。家族で人生の節目を過ごしてもらおうと、赤いちゃんちゃんこやお食い初めなどの衣装を貸し出したり記念写真を撮影したり……地元の人たちを中心に人気を集め、店舗数は香川、愛媛、岡山の3県で11店にまで拡大中だ。

従業員が活躍できる場をつくる

すべてが順調だったわけではない。「これまでに4度、絶体絶命の危機があった」と宮下さんは振り返る。

飲酒運転が厳罰化された2002年の道路交通法改正。景気が冷え込んだ08年のリーマン・ショックに、11年の東日本大震災。そして、新型コロナウイルス感染症……。「ことごとくお客様が激減し、経営が揺らぐ状況まで追い込まれました」

そんな中、宮下さんが取った戦略は「攻め」だった。「従業員のやることが無くなってしまった。じゃあ新たに店を出して、やることをつくらなければならない。それが私の役目ですから」
「遊食房屋別亭 美味休心」西条店=西条市新田

「遊食房屋別亭 美味休心」西条店=西条市新田

和食店の遊食房屋だけに留まらず、うどん店、焼肉店、エステやスパなど領域も広げ、“危機的な状況の時”こそ積極的に、新規出店に乗り出した。「どうしてそんな厳しい時期に店を出すんだ、という声はもちろんありました」。だが、「従業員の活躍の場をつくる」「給料は下げない」「店を1軒もつぶさない」、そう心に決め、宮下さんは攻め続けた。

「振り返ってみると、一番しんどかったのは新型コロナでしょうか……」

コロナ禍には、丸亀、倉敷、観音寺で焼肉店など3店舗を出した。「過去を乗り切った経験もあって、何とか踏ん張れましたね」。宮下さんはしみじみと話す。

3世代に及ぶ“遊食房屋ファン”

子どもの頃、テレビで見た料理番組。とても華やかに映った。「小学校の寄せ書きに『飲食店の社長になる』と書いたんです。私にとって料理は、人に夢を与えられる憧れの世界でした」

寿司店や温泉旅館での板前修業や、大手居酒屋チェーンで店舗の立ち上げや運営を学び、29歳の時に地元の現三豊市高瀬町で1号店を出した。「自信はあったんですが、最初はお客様が来なくて……。実績もなければ信用もありませんから。信号待ちをしている人にお店のビラを配るところから始めました」

やがて訪れる数々の試練を経て、気づかされたことがある。「地域との繋がり」だ。

コロナ禍で客足が途絶えた頃、「コロナ休校」で給食のない子どもたちに向け、全店舗で「100円弁当」をつくった。「3種類の弁当を全部で3万食ほど出しました」。原価が2倍近くかかるため、出せば出すほど赤字だった。でも、宮下さんは提供し続けた。「コロナの制限が和らぎ始めると、少しずつお客様が戻ってきてくれました。とてもありがたかったです」
地域に根ざし、長く信頼してもらえる店づくりを続けていく

地域に根ざし、長く信頼してもらえる店づくりを続けていく

現在は地元の高校とも連携。水産などを学ぶ高校生が養殖した魚を仕入れたり、廃棄食材を餌として提供したり、高校生が考えたメニューを取り入れたりしている。「食品ロス問題や循環型社会について考えるきっかけにもなれば良いですね」。観音寺市、丸亀市、高松市や新居浜市など店舗を出している地元自治体6市と、災害時に食糧を提供したり、店舗を避難所にしたりする協定も締結している。

地域の食を支え、地域に育てられて25年。“遊食房屋ファン”は3世代に及ぶ。「子どもの頃に店に来ていたお客様が今では親になって、子どもやおじいちゃんおばあちゃんと一緒に来てくれる。こんなにうれしいことはないですね」と宮下さんは目尻を下げる。

世帯数や近くに学校があるかなど立地条件を見定めながら、今後も地道に出店を続けたいと話す。だが、出店エリアを現在の3県以外に広げる考えは今のところ無いそうだ。「私の目が届かないところには出しません。転勤族が少ないエリアの店舗が多いので、さらに地域に根ざし、地元の人に長く信頼してもらえるような店づくりを続けていきたいと思っています」

篠原 正樹

宮下 昌典 | みやした まさのり

略歴
1970年 現三豊市高瀬町出身
     板前修業、大手居酒屋チェーン店勤務などを経て
1999年 株式会社遊食房屋 創業
     代表取締役

株式会社遊食房屋

住所
香川県観音寺市本大町1495-5
代表電話番号
0877-41-9975
設立
2000年11月
社員数
512人(パート・アルバイト含む、2024年4月現在)
事業内容
和食店、焼肉店、うどん店、スパ、エステの経営
創業
1999年10月
店舗
遊食房屋(観音寺総本店、宇多津店、高松南店、国分寺店、四国中央店)
遊食房屋別亭 美味休心(高松木太店、西条店)
江戸小路 鮮 遊食房屋(新居浜店、丸亀店、岡山総社店、岡山倉敷店)
グループ
炭焼 肉の近どう(宇多津店、高松古馬場店、丸亀店、観音寺店)
釜あげうどん岡じま(丸亀店、高松店、多度津店)
イタリアンレストラン「COVO(コーヴォ)」
頭ほぐし専門店「森の眠り」
MEN’S STYLE(メンズスタイル)
SPA JEWEL(スパ・ジュエル)(宇多津店、高松店)
地図
URL
https://www.yusyokubouya.com/
確認日
2024.11.07

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