知恵と創造力で 自分の道をつくり、歩む

大倉工業 社長 神田 進さん

Interview

2018.07.05

丸亀市中津町の大倉工業本社

丸亀市中津町の大倉工業本社

消費期限が2倍に

スーパーやコンビニにずらりと並ぶカップ麺。商品を包むプラスチックフィルムの製造で全国有数のシェアを誇るのが丸亀市の大倉工業だ。「カップ麺を包装している印刷されたシュリンクフィムルのシェアは7割以上。ここ丸亀から世界に通用するものを開発し発信していきたい」と神田進社長(63)は力強く語る。

食品をはじめ、私たちの暮らしのあらゆるシーンで「パッケージ」は身近にある。一見何の変哲もないプラスチックフィルムのように感じるが、そこには様々な技術が結集されている。

今、大倉工業が力を入れている「エコラップ」。食品をパッケージする一枚の薄いフィルムだが、実は何種類もの樹脂をミクロン単位で重ね合せるなど、独自の製膜技術でつくられている。「それぞれの樹脂の特性を生かした高機能な多層バリアーフィルムです。各層に『酸素を通さない』『水分の透過をコントロールする』『中身がクリアに見えるよう曇るのを防ぐ』などの機能を持たせています」
鮮度を保つ食品包装トレー用フィルム「エコラップ」

鮮度を保つ食品包装トレー用フィルム「エコラップ」

このフィルムがもたらす最大の効果は「鮮度保持」だ。特殊な包装システムを用いてエコラップで包むことで、これまでは2~3日しか持たなかった精肉の消費期限を5日ほどに延ばすことができる。「現在国内ではフードロスの増加が問題になっている。エコラップのニーズは急速に広がっていて、食品のロングライフ化に貢献できると思っています」

この新たな食品パッケージの分野では大倉工業のエコラップが業界を大きくリードする。競合メーカーも出てきているが、「何億円もする機械さえあれば、どのメーカーでも同じものを作れるのかと言えば、決してそんなことはありません」

様々な性質を持つ樹脂を、機能を発揮できるよう設計する技術、強度を保ちながら均一な薄さにフィルムを引き延ばす技術・・・・・・「これまで培ってきた加工技術があるからこそ生み出せた商品です。私たちの生命線でもある加工技術を生かして、社会に必要とされる新たな製品をどんどん提供していきたい」と神田さんは力を込める。

100年企業を目指して

兵庫県三田市生まれ。育ちも関西で香川にゆかりはなく、「大倉工業のことは全く知りませんでした」。だが、大学時代のゼミの教授が、大倉工業の当時の部長と親しかったことで入社を勧められ、縁が生まれた。「入社が決まった後になって、会社の詫間工場に親戚が勤めていることを知りました。実は縁が深かったんですね」

1947年、住宅業として創業した大倉工業は、ポリエチレン加工、ホテル業、冷凍倉庫業など次々と新規事業に着手。多角経営で時代の潮流に乗り成長を続けた。現在は、包装用プラスチックフィルムなどを製造する「合成樹脂事業」、テレビやスマートフォンのディスプレイ用光学フィルムなどを製造する「新規材料事業」、強度や耐水性が高く、壁や床材などに使われる「パーティクルボード」が主力商品の「建材事業」の3事業を中心に展開している。
スマートフォンやテレビの画質を高める位相差フィルム

スマートフォンやテレビの画質を高める位相差フィルム

近年はスマホの液晶画面の画質を高める光学フィルム「位相差フィルム」を業界でいち早く量産化。市場に出回る多くのスマホが同社製の加工フィルムを採用するほどに成長し、「創業70周年の節目だった昨年は過去最高益を記録しました」



神田さんは今年3月、社長に就いたばかり。「業績が好調な中での社長交代。正直、大変なプレッシャーがある」と打ち明ける。前社長の髙濵和則現会長から打診され、1カ月ほど悩んだが、「これが私の使命」と腹をくくった。

「目指すは100年企業。今後30年、成長を続けるために会社の構造改革を進め、足腰を鍛え直したい」と神田さんは口元を引き締める。

「自我作古(じがさっこ)」の教え

加工技術を生かし 新製品を世界へ発信する

加工技術を生かし
新製品を世界へ発信する

1977年の入社以来、40年のキャリアのほとんどは「新規開拓」とともにあった。合成樹脂事業の営業部時代は、新たな顧客を求めて九州の畜産業者全てを回り、生肉をパッケージするフィルムの売り込みに奔走した。「お客さんが何を求めているかは現場に行かないと分からない。『これ、ええやないか』と言われた時は本当にうれしいものです」

大倉工業グループの製版会社、ユニオン・グラビアの社長を任された際は、わずか数社だった取引先を約80社にまで拡大させた。座右の銘は「自我作古」。我自ら古(いにしえ)を作(な)す。「道のある人生を歩むのではなく、一歩を踏み出し、自分で道をつくっていけという中国の教えです」

大倉工業は顧客ごとの要望に応じて製品を開発・提供する「オーダーメイド方式」で売上を伸ばしてきた。しかし、「お客さんからの相談や注文を待ってしまいがちで、我々から提案していく意識が薄れてきているかもしれない」と神田さんは懸念する。

「社員たちには頭でっかちになってほしくない。一番大事なのは、まずは現場で感じて動いてみること。考えるのは後からでいい。敷かれたレールの上を歩くのは楽ですが、知恵と創造力を働かせて、自分にしかつくれない道を歩んでいってほしいと願っているんです」

篠原 正樹

神田 進 | かんだ すすむ

1954年 兵庫県三田市生まれ
1973年 三田学園高校 卒業
1977年 甲南大学経営学部 卒業
    大倉工業 入社
    名古屋支店合成樹脂営業部
2001年 大阪支店長
2004年 ユニオン・グラビア 代表取締役社長
2016年 大倉工業 常務取締役 合成樹脂事業部長
2018年 代表取締役社長

大倉工業株式会社

住所
香川県丸亀市中津町1515番地
代表電話番号
TEL.0877・56・1111/FAX.0877・56・1230
設立
1947年7月11日
社員数
単独 1,052名、連結 1,904名(2023年12月31日現在)
事業内容
各種ポリエチレン製品及びポリプロピレン製品の製造販売、光学機能性フィルム等の製造販売、パーティクルボード、加工ボード及び加工合板等の製造販売、木材加工、宅地造成及び建物建築の販売
資本金
86億1900万円
グループ会社
関西オークラ、関東オークラ、九州オークラ、オークラプロダクツ、オークラホテル、オークラハウス、ユニオン・グラビア、オークラプレカットシステム、オークラ情報システム、オー・エル・エス 他
地図
URL
https://www.okr-ind.co.jp/
確認日
2024.09.19

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ