森林飽和 国土の変貌を考える

著者 太田 猛彦/NHK出版

column

2018.08.02

7月の西日本を襲った豪雨災害から、もうひと月が経とうとしています。その記憶はまだ生々しいですが、今回は土砂災害の基本図書の一つと言っても問題のない「森林飽和」を紹介します。

著者はここ数十年の国土環境の劇的とも言っていい変化は、森林が回復して山に木がたくさんある森林飽和からきている影響だと言います。

私たちは普段、周りに緑が少ないと感じますし、田畑や山が削られて建物が建っていくのを目にします。ところが近くの里山あたりに一歩足を踏み入れると、そこはジャングルと化しています。日本の自然は今、いわば飽和状態にあり、これは自然がたくさんあるから問題ないということを意味しないし、新たな荒廃という問題が起きていると著者は警告します。

昭和の中頃より以前に育った人は、周りの里山が松を中心に僅かの木々しか生えていない場所だった記憶があると思います。当時の写真を見るとほとんどはげ山です。基盤岩が露出した山をはげ山というそうですが、花崗岩で出来たはげ山は岩石が地中深くまで風化してしまい岩石がいきなり真砂土になって土砂災害を引き起こします。

これに対し森林の増加は何を引き起こすのでしょうか。土砂流出の減少による海岸線の後退、河床の低下などいろんな問題があります。

土砂災害のメカニズム一つを取って見てもとても複雑であり、著者は防災より減災の考え方から、逃げることを前提としてソフト・ハードの施策を総動員することをすすめます。現代日本人は、江戸時代はおろか20世紀半ば以前の国土環境すらどのようなものであったかを忘れてしまっていると警告します。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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