《彫漆月之花手箱》は、耕堂が新文展で自身初となる特選を得た作品です。月之花とは夕顔のことで、闇夜の中で月明かりに照らされた花が表現されています。もともと漆は、朱、黒、黄、緑、褐色の五色に限られていましたが、耕堂は新素材のレーキ顔料をいち早く取り入れ、難しい中間色や鮮明な色漆を駆使して制作しました。本作でも漆特有の深い黒と、色漆による明色とのコントラストが印象的です。
また、箱全体を使った描写も耕堂の重要な特徴です。耕堂は若い頃、同じ高松出身で竹内栖鳳(たけうちせいほう)門下だった穴吹香邨(あなぶきこうそん)のもとで絵を学び、付け立てという下書きなどをせず直接筆で描く技術を身に付けました。立体物である箱に自然な描写ができるのも、この技術が生かされています。
本展は、高松市美術館開館30周年、そして耕堂の生誕120周年を記念し、代表作品や貴重な資料等約60点を通して耕堂の仕事を通覧する回顧展です。見る者を魅了し続ける音丸耕堂の華麗な彫漆世界をお楽しみください。
高松市美術館開館30周年記念特別展「音丸耕堂展―華麗なる彫漆世界」
【と き】9月15日(土)~10月21日(日)
【入場料】一般800円、大学生500円、高校生以下無料、身体障害者手帳または精神障害者保険福祉手帳所持者は無料
高松市美術館 橘 美貴
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