京都市美術館名品展 京の美人画100年の系譜

高松市美術館 橘 美貴

column

2018.05.03

上村松園《人生の花》1899年 京都市美術館蔵

上村松園《人生の花》1899年 京都市美術館蔵



本展覧会では京都市美術館所蔵の美人画約70点を通し、明治・大正・昭和の約100年に及ぶ美人画の系譜をたどります。美人画は明治半ば過ぎに誕生して以降、時代の流れとともに、さまざまな展開を見せました。ここでは、京都を代表する日本画家、上村松園(うえむら しょうえん)と菊池契月(きくち けいげつ)による美人画2点を紹介します。

まず、上村松園は女性画家のパイオニアであり、美人画の定型を作った画家です。彼女は浮世絵の美人絵など古今の絵画を参考にしながら、江戸時代の京の文化を描きました。本展出品の《人生の花》は松園が24歳の頃に制作したもので、婚礼に向かう花嫁とその母親が描かれています。花嫁が不安や戸惑いの表情を浮かべてうつむく一方、母親はしっかりと前を見て娘を先導しています。笹紅(ささべに)や青眉(せいび)など、江戸時代から続く化粧は松園がこだわった重要な要素で、京の文化を残したいという思いがこめられています。
菊池契月《少女》1932年 京都市美術館蔵

菊池契月《少女》1932年
京都市美術館蔵

次に、菊池契月《少女》です。歴史的な主題を得意とした契月ですが、本作では同時代の女性を描きました。彼女は落ち着いた色合いの着物を身につけ、軽く膝を抱えてゆったりと座っています。口元はきゅっと結ばれていますが、灰色がかった静かな瞳は何かを語りかけているようです。また、着物の柄も作品の魅力を引き立てています。着物には雀、桜の花、貝が描かれ、中でも雀たちは着物を飛び回り、可愛らしい姿で作品を彩っています。彼女の左ひじのあたりで向かい合う2羽は番(つがい)でしょうか、まるで画中画のように、もうひとつの物語があるようです。契月の特徴であるすっと伸びた描線が女性の凛とした美しさをさらに強調しています。

この2点に見られる写実性や細密描写、人物の内面表現は京都画壇の特徴です。また、着物の意匠へのこだわりも、染織などの工芸が身近だった京都ならではです。本展では他にも、土田麦僊(つちだ ばくせん)や梶原緋佐子(かじわら ひさこ)、甲斐庄楠音(かいのしょう ただおと)のような、大正期に社会的リアリズムを追求した画家たちや、広田多津(ひろた たつ)、秋野不矩(あきの ふく)といった女性画家、舞妓の画家として知られる林司馬(はやし しめ)や大日躬世子(おおくさ みよこ)など、京の画家たちによる美人画を展示します。描かれたモチーフや表現は多種多様ですが、根幹には京の地で育まれた文化や、受け継がれてきた伝統が流れているのです。

「京都市美術館名品展 京の美人画100年の系譜」

【とき】6月3日(日)まで
【ところ】高松市美術館(高松市紺屋町10-4)
【入場料】一般1000円、大学生500円、高校生以下無料
※主催=高松市美術館 特別協力=京都市美術館

高松市美術館 橘 美貴

写真
高松市美術館 橘 美貴

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ