木村忠太は、戦後1953年にフランスに渡り、87年にパリで逝去するまで、ほとんど帰国することなく、フランスを舞台に自らを「魂の印象派」と称して画業に専心した画家です。今から60年ほど前の木村の洋行とは、船で横浜を出港し、2カ月かけてマルセイユに渡るというものでした。すぐさまパリに居を定めるも、「芸術の苦しみ、生活の苦しみ、貧乏のどん底と病気の苦しみ」に喘ぐ日々だったといいます。特に、渡仏して間もない1956年頃、木村は「中心の問題」に突き当たり、思うように絵が描けなくなります。はじめに絵の中に中心を決めてしまうと、それに縛られ自由が利かず、以後5年間の暗黒時代を過ごしたそうです。
しかし、1960年代後半、光降り注ぐ南仏のクロ=サン=ピエールにアトリエを持った木村は、夏の数カ月をそこで制作し、秋以降はパリに戻り南仏のモチーフを描くという生活のリズムによって、画風を大きく開花させました。木村はここでの出会いをこう語っています。「油絵で問題なのは光だと思う。美しさというのは陰と陽が隣り合うと、そこがピカッと光る。それが光の原理ということであり、そこに絵具の置き方の問題が出てくる」と。本作《グラース郊外》もまた南仏の町。自然と深く交感することにより、木村は魂に焼きついた光を画面に現出させることになりました。
水と光がゆらめく絵画《bathtub no.15》の作者・曽谷朝絵(1974-/神奈川県生まれ)は、今回特別展示として、一室を覆う映像インスタレーションによって光と色彩のハーモニーを生み出します。それら有機的な光が幾重にもこぼれていく空間に、私たちの体はゆるやかに包まれ不思議な感覚を抱くことでしょう。ぜひこの体験もお楽しみください。
特別展「高松市美術館コレクション + (プラス)木村忠太とこぼれる光のなかで」
【ところ】高松市美術館(高松市紺屋町10-4)
【入場料】一般800円、大学生500円
【関連イベント】ギャラリートーク 3月10日(土)午後2時~、要観覧券
高松市美術館 学芸員 毛利 直子
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高松市美術館 学芸員 毛利 直子
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