気がつくと、つい口にしてしまう「かわいい」という形容詞。皆さんはどのようなときに使われますか?時代をさかのぼると、語源「かはゆし」は不憫なものに憐みの情を抱く場合に用いられていました。一方、現代と同じ意味で使用した古語は「美しい」の語源「うつくし」であり、平安中期の歌人・清少納言は無邪気な子どもや雀をその例として挙げています。
続いて、江戸末期に活躍した玉楮象谷(たまかじ ぞうこく)が大成させた讃岐漆芸。そこには、縁起の良い野菜や果物などがモチーフとしてよく登場します。例えば、梅は花びらが5枚あることから「五福」(寿命の長いこと、財力の豊かなこと、無病息災であること、徳を好むこと、天命を全うすること)に通じると考えられてきました。磯井正美の《蒟醤梅花結実(きんま ばいかけつじつ)箱》(2004)は、《蒟醤梅花芳香(きんま ばいかほうこう)箱》(2002)と《蒟醤梅花吸蜜(きんま ばいかきゅうみつ)箱》(2003)に続く梅の花を主題とした一連の作品です。本作品は梅花が蝶の受粉により結実し、その実で梅酒が仕込まれ、やがて味わえるようになるまでの「時間の経過」が表現されています。大小七つの梅の実は「往復彫り」で陰影をつけ、黒色の背景に浮かび上がっています。梅酒の注がれるグラスの楕円形が側面に見て取れるユニークな作品です。
「かわいい」現代美術作品と新春にふさわしい吉祥図(きっしょうず)の描かれた讃岐漆芸作品をぜひお楽しみください。
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