平成29年度 第4回常設展

高松市美術館 学芸員 尾形 絵里子

column

2018.01.04

淺井裕介《青犬》2015年

淺井裕介《青犬》2015年

高松市美術館では4期にわたって、所蔵作品を展示しております。本年度最後の常設展示となる第4期常設展は「かわいい」をテーマにした現代美術と「食べもの」をテーマにした讃岐漆芸をご紹介します。

気がつくと、つい口にしてしまう「かわいい」という形容詞。皆さんはどのようなときに使われますか?時代をさかのぼると、語源「かはゆし」は不憫なものに憐みの情を抱く場合に用いられていました。一方、現代と同じ意味で使用した古語は「美しい」の語源「うつくし」であり、平安中期の歌人・清少納言は無邪気な子どもや雀をその例として挙げています。
磯井 正美《蒟醤 梅花結実 箱》2004年

磯井 正美《蒟醤 梅花結実 箱》2004年

また、近年の「きもカワイイ」なる若者言葉からわかるように、「かわいい」はグロテスクなものに対しても使われます。不憫なもの、小さなもの、幼げなもの、グロテスクなもの、ユニークなもの・・・と、「かわいい」は多様なものに用いられてきました。皆さんはどの作品に「かわいい」を感じるでしょうか。淺井裕介の《青犬》(2015)はどうでしょう。淺井は、マスキングテープに耐水性マーカーで動物や植物を描く「マスキングプラント」を制作しています。本作品は、その制作過程において大量に生まれたマスキングテープの余りや芯を利用し制作されたものです。不思議な模様が描かれた青い犬。くりくりとした目や太く丸みを帯びた足先が愛くるしさを感じさせます。

続いて、江戸末期に活躍した玉楮象谷(たまかじ ぞうこく)が大成させた讃岐漆芸。そこには、縁起の良い野菜や果物などがモチーフとしてよく登場します。例えば、梅は花びらが5枚あることから「五福」(寿命の長いこと、財力の豊かなこと、無病息災であること、徳を好むこと、天命を全うすること)に通じると考えられてきました。磯井正美の《蒟醤梅花結実(きんま ばいかけつじつ)箱》(2004)は、《蒟醤梅花芳香(きんま ばいかほうこう)箱》(2002)と《蒟醤梅花吸蜜(きんま ばいかきゅうみつ)箱》(2003)に続く梅の花を主題とした一連の作品です。本作品は梅花が蝶の受粉により結実し、その実で梅酒が仕込まれ、やがて味わえるようになるまでの「時間の経過」が表現されています。大小七つの梅の実は「往復彫り」で陰影をつけ、黒色の背景に浮かび上がっています。梅酒の注がれるグラスの楕円形が側面に見て取れるユニークな作品です。

「かわいい」現代美術作品と新春にふさわしい吉祥図(きっしょうず)の描かれた讃岐漆芸作品をぜひお楽しみください。

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