
串田式正常田植器を使った田植え体験
香川県の農業の命題は「狭い農地から効率的に収穫を上げるか」ではないでしょうか。特に農業が機械化されるまでは、温暖な気候を利用し、1年で麦と米の二つの作物を作りこなし食料を確保してきました。昭和初期には、麦と米の作付面積がほぼ同じであったことからも、かなり効率的な農業を営んでいたことが考えられます。
しかし、麦の収穫期は6月上旬(麦秋至※)で、田植えのリミットは7月上旬(半夏生※)であることから、僅か1カ月の間に麦刈り、田植えの準備、そして田植えと、農作業が一時期に集中します。

この立役者が串田式正条田植器です。この田植定規は小学校の校長を務めた三木町の串田太市氏が明治39年に商標登録し、県内で爆発的に普及しました。「ベテランの女性は1日で1反を植えた」と言われるほど高効率な田植えが可能となりました。
私も実際にこの田植定規を使った田植えに挑戦してみました。残念ながら最後の方は体が悲鳴を上げ、6時間で0.5反が限界でしたが、1日1反というペースはあながち間違いではないと感じました。また、一人1台を使って効率的に作業できること、未経験の小学生でも整然と植わるように技術の習熟度に依存しないことなど、手植え式田植方法の中では最も進化した手法ともいえるのではないでしょうか。
※いずれも季節を表す言葉七十二候の一つで、「麦秋至」は6月1日頃、「半夏生」は7月2日頃を指す。
串田式正条田植器はまさに香川県の農業の課題とその解決方法を具現化した民具であり、今なお現役としてその存在感を発している生きた民具であると感じて止みません。
香川県の食文化は非常に独特なものがあります。食文化の成立を考えるにはその素材、つまり農業の視点がなくてはなりません。これから数回は、改めて香川県の農業が抱える命題を整理し、香川の農業と食文化の関連性を見つめてみたいと思います。
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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