コーヒーと日本人の文化誌

著 メリー・ホワイト|訳 有泉芙美代/創元社

column

2018.10.04

ベネチアのサンマルコ広場や、セネガルのダカールの市場、ニューヨークのセントラルパーク、さらに北京の天安門広場のような公共空間が日本にはほとんどなく、狭くて人口密度の高い日本は、膝をつき合わせたやりとりができる小さな場所へと向かう傾向があると、この本の著者は言います。1888年に日本に初めて出来たと記録されている喫茶店が、独自の発展を遂げ、本書の副題にもある世界最高のコーヒーが生まれる場所になった理由は、その辺にあるような気がします。

日本のコーヒー店はシアトル系のチェーン店から、マスターがエスプレッソマシンを使わずに一杯ずつハンドドリップで淹れる店まで幅が広い。そして歌声喫茶、ジャズ喫茶、純喫茶、画廊喫茶さらにはゲーム喫茶、メイド喫茶まで何でもあります。歌になった喫茶店を思いつくまま上げても、たとえば高田渡が歌った京都の「イノダ」、早川義夫の新宿にあった「風月堂」、西岡恭蔵の大阪難波にあった「ディラン」などいくつもあります。

ドナルド・リチーは、喫茶店は「海外のイノベーションがすぐに日本的になるのを最初に見られる場所である。音楽喫茶ではじめてシェーンベルクを聴き、芸術喫茶ではじめてジャコメッティの作品を鑑賞し・・・そこにはさまざまな外国文化のかけらが置かれている」と言いました。

この本は日本における喫茶店の歴史と社会との関係性を詳しく読み解いていきますが、個人的には本と喫茶店はとても相性が良く、買った本をその帰り道に喫茶店で読む楽しみは格別です。

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。
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宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん

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