
誰も思いつかなかった!・・・ストッキング生地のインナー ラモナー 代表取締役社長 藍川 保樹さん
景気と流行と海外製品という三つの荒波に洗われる業界は、設備に巨額な資金のかかる装置産業だ。中小メーカーの生きる道は二つに一つ。大手メーカーの傘下に入るかOEMを柱にするか。ラモナー(株)は、自力で販路を開拓するOEMを選択した。
パンストが2000年代に入って売れなくなった。大量生産、大量販売、低コストで発展して来た業界の仕組みも壊れてきた。
05年、3代目社長になった藍川保樹さん(41)は、経営方針を変えた。〝プロダクト・アウト、マーケット・イン〟。ストッキング生地を使ったインナーは、そこから生まれた。
※(シームレス)筒状に編んだ縫い目のないストッキング。
※(パンスト)つま先から腰まで一体化したパンティストッキング。
※(サポートパンティストッキング)伸縮性の高いポリウレタンにナイロンを巻きつけた、サポート糸で作られたパンスト。丈夫でフィット感が高い。
※(OEM)相手先ブランドによる生産。
※(プロダクト・アウト)企業が自社の販売・生産計画に基づいて、市場へ製品やサービスを投入すること。
※(マーケット・イン)消費者のニーズを商品化すること。「はじめに顧客ありき」の考え方。
※(インナー)Tシャツやシャツなど素肌の上から直に着用する衣服。
小学生で「跡継ぎ」指名

この時期、東京営業所を開設、関東市場を開拓して量販店との取引を軌道に乗せ、成長基盤を固めたのが藍川さんの兄、隆志さんだった。
その隆志さんが34歳で早世した。隆志さんが健在な時から、「兄の次はお前だ」と言われてきた小学5年生の藍川さんは複雑な気持ちだった。
「会社を継ぐことが、急に現実になって、悲しみと腹立たしさが入り交じりました」。成長につれて跡継ぎの使命感と重圧はますます強くなった。
強くなって売れなくなった
カジュアルファッションの流行で「生足ブーム」が起きたからだ。若い女性たちはパンストで装うより、「素足の脚線美」にもっと価値があると気づいたのだ。
〔データ〕
日本靴下工業組合連合会によると、2009年に国内で生産されたパンストは1億2700万足。1999年の4億7700万足に比べて、10年間で約4分の1に激減している。
「会社の売り上げは89年の72億円がピークで、毎年下がり続けました」。93年に入社した藍川さんは、「お前が会社に入ってからロクなことがない」と、戦後の混乱期、ゼロから創業、成長させた、父 保一さん(現会長・92)によく、言われたという。
「日曜日の朝5時に、『会社に来い。仕事をしろ』と電話がかかってくるのも度々で、当時の社長=故人・福本邦彦さん=や幹部は、休みの日も朝8時には、出勤していました」。藍川さんは、笑みを浮かべながら当時を振り返る。
※(伝線)ストッキングなどの糸のほつれが縦状にひろがること。
※(生足)靴下・ストッキングをはいていない女性の足の表現。
売れるものへの脱皮
「何十億円もかけた工場です。会長は怒りました。しかし、自分が決断しました。僕が自分で工場を建てていたら、判断を下せたかどうか分かりません」。藍川さんは、父と自分を冷静に比べ、分析する顔になった。
量販店との取引は価格の競争だった。 「中国製品と、コスト競争をしていました。勝てるはずがなかったんです」
2005年、3代目社長になった藍川さんは経営方針を変えた。「工場を動かすためだけの、赤字の仕事はやめました」
コスト競争から、デザインと品質の競争へ。価格の高い柄物パンストへ。OEMで多くの販売チャンネルを開発してきたことが強みになった。
「大手メーカーの傘下に入らず、どことでも取引させてもらうのが会長のやり方でした。これが取引先から見ると、ラモナーはいろんなところの情報を持っている、同業他社の動きや、トレンドが分かっていると評価されたんです」
販売先ごとの好況と不況も把握できた。「あるところが売れなくなっても、必ず売れているところがあるんです。百貨店や量販や通販、専門店、テレビショッピング・・・・・・その時々で違うんです」
販売先から、いろんな「マーケット・イン」の情報が集った。OEM供給先のアパレルや専門店から、こんなデザインをと注文が入って来るようになった。
※(アパレル)アパレルメーカー。衣服(特に既製服)の企画、製造、卸売りを行っている企業。
パンストからインナーシャツへ
パンストが売れなくなっても製造設備を遊ばせるわけに行かない。大手のメーカーが、パンスト活用法をヒントにガードルを製品化した。華やかな下着売り場で売り出したが、パンスト生地は見栄えが悪くて売れなかった。
ラモナーの開発は、もっと消費者ニーズを見極める視線で始まった。02年、筒状のパンストを二つに切って縫い合わせて、インナーを作った。同じ時期、パンストの機械メーカーが開発した、インナー用サイズの筒状に編める機械も導入した。
そして07年、縫製の継ぎ目のない、誰も思いつかなかった、ストッキング生地のインナーシャツを完成させた。
「ある得意先が『エアーインナー』の商品名でテレビショッピングに出したら、年間30万枚売れました。幸運でした。着膨れしないのでおしゃれな年配のご婦人に、特に好評です」
商品説明にたっぷり時間をかけるテレビショッピングで、「軽い・薄い・温かい」パンスト生地のインナーシャツが、市場に受け入れられた。ストッキングは衣類のカテゴリーを超えて、「インナーシャツ」へと進化したのだ。
※(テレビショッピング)24時間放送のテレビショッピング専門チャンネルQVC。
苦労は財産
その藍川さんが若い人に贈る言葉は、「苦労は財産」だ。「苦労は自分で出来ません。周りから問題をぶつけられ、その苦労から逃げない経験が財産になるんです」
専務時代に会長や2代目社長にしごかれた。「逃げずにめちゃくちゃ仕事をしました。カバーリング工場の廃止もそのひとつです」
大学受験に失敗した藍川さんは、今でも自分を許せないという。受験という苦労から逃げたからだ。しかし、その苦い挫折から、ひたむきに苦労に立ち向かう経営者が育ったのだ。
天の声、天命
「社長就任の後、取引先のあいさつ回りを終わった夜、福本さんが亡くなりました。福本さんの誕生日でした。なにか運命的なものを感じました」
福本さんには営業本部長として頑張ってもらう予定だった。それができなくなった。甘えていたと思った。「これからは自分ひとりでやらなくてはと、気がついたんです。そしてプレッシャーを感じました。逃げ道があったら、やっぱり甘えてしまいます。今もそうです。会長がいますから、まだ甘えています」
実力でなったのではない。なりたくてなったのでもない。社長になったのは「苦労から逃げるな」という天の声、天命かもしれない。藍川さんはそう思っている。
藍川 保樹 | あいかわ やすき
- 1970年 綾歌郡宇多津町生まれ
1993年 Bond University (Australia)BA 中退
グンゼ(株)入社
1994年 ラモナー(株)入社
1999年 取締役専務に就任
2005年 取締役社長に就任
現在に至る
- 写真
ラモナー株式会社
- 所在地
- 香川県宇多津町1045番地の1
TEL 0877-49-0211 /FAX 0877-49-3657 - 創業
- 1954年
- 創立
- 1961年
- 資本金
- 9760万円
- 代表者
- 藍川 保樹
- 事業内容
- 各種レッグニット(靴下製造販売)
- 主要製品
- パンティストッキング、タイツ、ソックス、インナー
- 従業員数
- 本社118名(男性25名・女性93名・内パート55名)
第一工場・綾歌工場 81名(男性15名・女性66名・内パート52名) - 沿革
- 1954年 内海工業合資会社設立
1961年 ラモナー株式会社設立(資本金300万円)
1963年 シームレスストッキング製造開始 資本金1000万円に増資
1964年 資本金2000万円に増資
1968年 パンティストッキング製造開始
1971年 第一次繊維工業構造改革事業計画、通商産業大臣の承認を受ける
資本金6550万円に増資
1972年 東京営業所開設
1979年 第二次繊維工業構造改革事業計画、通商産業大臣の承認を受ける
資本金9760万円に増資
1988年 カバーリング工場竣工 サポートヤーン製造開始
1993年 タイツ合理化一貫生産スタート
2002年 サントニー大口径編機導入
インナー製造開始
2007年 画期的商品 インナーシャツの完成
- URL
- http://www.lamona.co.jp/
- 確認日
- 2018.01.04
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