一つひとつの出会いを大切にしてきた。人とも、ものとも・・・・・・

四国民家博物館 事務局長 吉田 博さん

Interview

2010.02.04

現在、四国民家博物館の事務局長を務める吉田博さんは、昨年、高松市塩江町の内場池の畔に家を建てた。山あいの景色にとけ込む落ち着いた色合いと、柱と共に家を支える天井付近のむき出しの梁が印象的なこの家には、吉田さんがこれまで18年にわたって収集してきた古材や骨董、民芸品があちこちに使われ、生かされている。

収集品と一緒に単身赴任生活

吉田さんは昨春までアサヒビール株式会社に勤務、長く営業に携わった。若い頃から古いものに愛着があったが、「本格的に収集を始めたのは、単身赴任生活になってからですね」。勤務地が変わるたびに収集品も吉田さんとともに引っ越し、マンションの一室は保管庫となっていった。「家族が住んでいた家よりも、単身赴任の僕のほうが間取りが多かったなあ」

収集品第1号となったのは、囲炉裏やかまどの上につるし、かけた鍋や釜、鉄瓶などの高さを自由に上げ下げできるようにする「自在かぎ」だった。「一目でいいなあと感じた。自在かぎもそうでした。18年間ずっと持ち歩き、やっと使える家ができました」

民芸店や骨董市など、時間があればのぞいて歩いた時期もあった。骨董好きネットワークの情報網は広く、こんなのあるからいらない?と、知り合いはもちろん、会ったこともない人からも声がかかった。「譲ってくれた火鉢や箪笥などには様々なエピソードがある。それも僕が引き継いで、大切に使っています」

自分にとっての「本物」が大切

吉田さんがいいと感じるものは、道具や古材がほとんど。「竹や石、木などの素材に興味があります。素材をそのまま使っているものに引かれる。使い込まれて飴色になった木なんかは特にいいですねえ。そんなものを掘り出したい。だから、掛け軸のような品にはあまり興味がないんですよ」

探し出し、触感を確かめ、じっくりと見る。「古いものとの出合いを大事にしたい。世の中にはいい物がたくさんある。昔のものにはいいものが多いですね。若い人はすぐに捨てるけど、なんでかなと思いますね」。そうは言っても、本当に自分が欲しいと思うものとの出合いは、そう何度とはない。「目も肥えてくるんですね。いろんなものを見ることで、本物がわかるようになってくると思う。ものが持つ『強さ』が違う気がしますし、見る目の差もあるでしょうね」

一度の出会い、繋がりを大切にしたい

アサヒビールでの営業マン時代、吉田さんは骨董や民芸とのかかわりで培った感性を、開店時のお祝いなどに生かした。「京都の、ある民芸店が扱っているものがよくて、度々使わせてもらいました。竹製の魚篭を使った照明器具は多くの店に贈り、喜んでいただけた。他には座布団なども好評でしたね」。ある店のオープンには、大阪の黒門市場で扱っている鯛をお祝いにして贈った。「市場から帰ってくる時間に待ちかまえてね、松葉をしいて、紅白の紐を結んで。喜んでくれましたよ」。形式的なものではない、人とは違う贈りものというだけでもうれしいのに、気持ちが込められているものだから、ますます心に響く。

高松、大阪、東京。それぞれの勤務地で出会った人々やものとの付き合いを、今もずっと大切にしている吉田さん。それに加えて、今後は新築した家での楽しみも増えるはず。「自分にとって『本物』と思えるものを多く持つことができた。今後も大切に、長くつきあっていきたいですね」

吉田 博 | よしだ ひろし

略歴
1947年 香川県生まれ
1965年 アサヒビール株式会社入社
2009年 4月 アサヒビール株式会社退社
2009年 7月 財団法人四国民家博物館事務局長
写真
吉田 博 | よしだ ひろし

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