
昨年6月にオープンしたカフェ「ROUGH&TOUGH COFFEE STAND」。
家具のギャラリーも兼ねる=高松市郷東町の日美株式会社
”質から量へ”方向転換

人気商品の「Hanna(ハンナ)」(奥)と「GUY(ガイ)」。
冬はコタツ、夏はテーブルに
木工家具を製造・販売し、全国発信する日美株式会社。社長の白井正人さん(52)が何よりも重視するのが「常識にとらわれないオリジナリティー」だ。
4年前に開発した人気ブランド「ROUGH&TOUGH」。白井さんは「完成形のない、進化し続けるブランド」と表現する。節や割れ目など素材の木が持つありのままの“表情”をデザインに組み込み、文字通り荒々しくて力強い、コタツやイス、ダイニングテーブルなどを生み出していく。「節や反りは欠点として嫌われてきた。でも、それこそ木の本来の姿で、生命力や生きざまがあふれている。表情豊かな素材に、私たちが持つ手仕事の技術を融合させて何を生み出していくか。いつもそればかり考えています」
日美の創業は1923年。機械工具の製造や時計製造などを経て、80年代に木工品製造へと舵を切った。だが、「当時は大量生産時代。デザインや質よりも、コスト重視で同じ規格のものをつくり、量販店に卸していました」
白井さんには違和感があった。いくらコストダウンしても海外の低価格品には勝てない。数でも大手にはかなわない。そして何より「同じものばかりつくっても面白くなかったんです」
2008年、42歳で社長になり、「これまでと真逆のことをしました」。大量生産をやめて品質にこだわり、注文を受けて一からつくるフルオーダーに方向転換。材料の選定から、設計、デザイン、木工、縫製、梱包まで全てを自社でやる体制を敷いた。「一貫生産することでスタッフ間のコミュニケーションも取りやすく、タイトなスケジュールにも対応できる。この業界の納期は3カ月程度が一般的だが、うちは1カ月で納品できるのが大きな強みです」
取引先は量販店から、インテリアショップや個人へと変わり、つくる量も減った。だが、白井さんはこう話す。「お客さんにはそれぞれに思いやニーズがある。それにマッチングしたもの、愛着を持って使ってもらえるものをタイムリーに届ける。大手の大きな波に揉まれながら必死で食らいついていくよりも、独自の戦略でチャレンジしながら突き進んでいきたい」
メジャーデビューを夢見て

素材と技術を融合させ木の“表情”を生かす
庵治町生まれ。高松高専(当時)を卒業後、坂出市のプラント保全会社に就職したが、「ロックミュージシャンになりたかった。RCサクセションに憧れ、バンド活動に明け暮れていました」。1年で会社を辞め、メジャーデビューを夢見て上京した。だが、共同生活していたバンドメンバーと意見が合わずケンカ別れ。住むところがなくなり、一時はホームレスも経験した。
転機は1989年。新メンバーとバンド活動を続けていた頃、地元香川のライブイベントに呼ばれ帰郷した。「無事にライブを終え、さあ東京に帰ろうという日に母親が交通事故にあった。それで戻りづらくなって……」。そこで出合ったのが日美だった。「アルバイトとして入りました。もちろん東京に戻るつもりで、“お金を貯めるためのつなぎ”くらいにしか思っていませんでした」。
最初は商品を取引先に届ける配送の仕事。高松高専時代は旋盤加工や鋳造に夢中になるなど、元々ものをつくるのは大好きで、手先も器用だった。やがて自社製品の設計を手掛けるようになり、「気がつけば、工場長を任されていました」
この間にも3枚のアルバムを自主制作。決してミュージシャンをあきらめたわけではなかった。しかし、「ある時、お客さんから『こんな家具をつくってほしい』という相談を受け、設計から製作まで一連のプロセスを経験したんです。『つくるって、こういうことなんだ』と一気にこの仕事が楽しくなりました」
音楽と家具製作はよく似ていると白井さんは言う。「表現したいものを生み出し、音楽はライブで、家具は展示会で発表する。『人を喜ばせたい』という根っ子の部分は全く同じです」
無理だった「真面目な社長」

工場の様子
就任当初は「真面目な社長になろう」と慣れないスーツを着て、取引先では頭を下げ続けた。でも、「1週間しかもたなかった。私には、型通りの社長はやはり無理でした」と笑う。
自分には何ができるのか、どんな社長になれるのか。自問自答を繰り返し、たどり着いたのは「本性をさらけ出すこと」だった。「飾る必要なんてない。お客さんの要求や想像を超えるほど”自分らしい””日美らしい”商品をつくる。それが私の信念です」
ミュージシャンの夢は捨ててはいない。でも今は、それ以上の夢がある。
「日美の工場を、子どもたちがものづくりに触れられる“ワンダーランド”にしたい。子どもの頃に得る『つくる』という経験は、きっと人生のプラスになる。誰もが気軽に入れて楽しめる開放的な工場を、いつかつくりたいですね」
篠原 正樹
白井 正人|しらい まさと
- 略歴
- 1966年 庵治町生まれ
1987年 高松工業高等専門学校(当時) 卒業
1987年 菱化工業株式会社 入社
東京でのバンド活動などを経て
1991年 日美株式会社 入社(配送アルバイト)
生産管理、開発設計担当などを経て
2002年 開発部長
2005年 統括部長
2007年 取締役
2008年 取締役社長
2009年 代表取締役社長
日美株式会社
- 住所
- 香川県高松市高松市郷東町379-1
- 代表電話番号
- 087‐882‐7705
- 設立
- 1962年(創業1923年)
- 社員数
- 35人
- 事業内容
- 木製品の製造販売(コタツ、テーブル、チェア、住宅内装材他)
- 資本金
- 1600万円
- 地図
- 確認日
- 2019.03.18
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