
「(有)キウイバードコーポレーション」社長の島田満沖さん(60)は、栽培歴29年のスペシャリストで、日本で最大130アールの栽培面積を持つキウイ専業農家だ。 出荷先の農協と話が合わず、飛び出した。朝から晩まで3日間、畑で向かい合ったキウイの木がヒントをくれた。売り先は自分の足で開拓した。
味も値段も、「どこにも負けないキウイを」という島田さんの元に、みかん、ぶどう、桃農家が集った。農業に人生を賭ける2人の若者が都会から加わった。目指す年収は1000万円だ。
※(キウイフルーツの出荷量・栽培面積)
国内の年間出荷量は約2万7300トン。栽培面積は2570ヘクタール。生産高の多い県は愛媛県や福岡県など。2007年農林水産省生産出荷統計資料。
輸入量は6万トン。ニュージーランド産が96.2%を占める。07年度(社)日本青果物輸入安全推進協会資料
1000円のキウイが売れた!

「当時キウイは100円程度でしたから、値段に驚かれて、面白いと買われたんです。高松市内のお医者さんと奥さんだったそうです。その方が、歳暮用に5個入りを34ケースも注文してくれたんです」。21年前の感動を、島田さんは今も目を細めながら語る。
おやじのコピーになりたくない
数年後、みかん価格が低迷したとき、県が産地化を目指して品種開発したキウイ「香緑」と出合った。奇跡的に病気から回復した父は、自作地での栽培に反対した。3年目、借地で試作していたキウイが実った。
「元旦に家族で食べました。うまいんです。おやじとおせちをひっくり返すほどのけんかになりました。『おやじのコピーになりたくない』と言ったら、土地の権利書や貯金通帳を渡してくれました。おやじには、感謝しています」・・・・・・91年、自作地のすべてがキウイ畑になった。
農協から飛び出る
提案が却下されて、87年農協から飛び出した。「キウイを収穫したら、まず冷蔵庫に入れて保管しますが、農協を出ると冷蔵庫も出荷先もありません。困りました」
島田さんの支えは、妻の佐枝子さんに、「いいものを作り続けていたら必ず認めてくれる」と励まされたこと。もう一つ、目標をくれたのは農業資材会社の役員だった。「1000円で売れるキウイを作らないと、専業でやれないだろう」・・・・・・そう言われて発奮した。
発見!枝によって糖度が違う
「何時間見ても、葉色も実も変わりません。近所の人から、『農協を飛び出して、満沖さんは頭が変になった』と言われました」
3日目、ふと気付いた。「キウイの枝は、つるがくるくる巻きます。その中に数本だけ6、70㎝まっすぐ伸びている枝があるんです」。枝に目印の布切れをつけた。収穫の直前、実をサンプリングしたら糖度が17度以上あった。巻いたつるの実は糖度が15、6度だった。 「作物の成長は人と同じで、体づくりの栄養成長と子孫づくりの生殖成長があります。子孫のために糖分が上がるんです」。島田さんは、生殖成長の枝がまっすぐ伸びるのを発見した。
三越詣で

「確かにうまいけど、1個1000円のキウイは三越といえども売れない。来てもだめです」と言われたが、畑仕事が出来ない雨の日は三越へ通った。
「34回目、『根負けした』と野菜売り場に、40㎝ほどの販売スペースをくれました」。売れるようになった。高松三越から三越本店へ。キウイバード印が三越の全国カタログに載った。
トップブランド戦略
3年目、93年は冷夏長雨で、果物の出来が悪かった。島田さんは長雨対策に、地面にビニールを敷いて育てたキウイを、いつものように持参して食べてもらった。「三度目の正直は無かったと思いました。席を立ったとき、『帰ったら少し送ってみてください』と言われました」。当時全国で約4000店あった果物小売店の頂点といわれる、銀座千疋屋との取引が始まって名古屋、中国、九州まで一気に、有名店との取引が広がった。
※(銀座千疋屋)
1894年創業の果物専門店。日本で初めてフルーツパーラーを開業、宮内庁御用達の老舗。
プロ集団「さぬき果匠会(かしょうかい)」
「付加価値の高い果物作りのプロ集団を作ろうと思ったんです」。2004年、「さぬき果匠会」を設立。近藤農園の桃は三越で、果匠会ブランドで販売してもらい、香川県下で売上トップになった。
みかんとぶどう農家も加わった。「ぶどうはまだ3年目ですが、皮ごと食べられる『シャインマスカット』が出来ました」。島田さんの付加価値戦略はさらに加速する。
年収1000万円
「2人の若者に、『善通寺で死ぬ』と言われたら、浪花節かもわかりませんが本気になります。新品種を受け持たせて、ブランド果物の産地化を目指します」
年収目標は1000万円だ。島田さんは人生を賭けて果匠会の成果を世に問う・・・・・・農業で自立できる収入があれば、後継者は増える。荒れ放題の休耕地もよみがえる。
天秤棒精神(てんびんぼう)
「競争相手はほっといても売れるコカ・コーラです。営業地区はこんぴらさん。ペプシは全く売れなかった。そこで近江商人の天秤棒です。ペプシを売るのではなくて自分を売り込みました。お店のおばあさんが階段を上がっていたら荷物を持つ。お店でふき掃除をしたり、空き瓶の整理をしたり。そのうちせっかく来たんだから1箱でももらおうかと少しずつ売れるようになりました」。島田さんは520人ほどいたセールスマンの中で、売り上げ2位になっていた。
※天秤棒精神
商売の原点といわれる、行商で市場開拓した近江商人の心構え。
島田 満沖 | しまだ みつおき
- 略歴
- 1950年 善通寺市吉原町生まれ
1968年 県立飯山高校園芸科卒業、四国清涼飲料入社
1970年 琴平クレーン株式会社入社
1978年 島田興業(クレーン事業)設立
1979年 就農
1989年 キウイバードコーポレーション設立
1998年 有限会社 キウイバードコーポレーションとして登記
2004年 有限会社さぬき果匠会設立
有限会社キウイバードコーポレーション
- 住所
- 香川県善通寺市吉原町1407-1
- 代表電話番号
- 0877-63-1006
- 設立
- 1998年
- 社員数
- 3人
- 事業内容
- キウイフルーツ生産・販売と加工品販売(ジャム、ゼリー、ジュース、シャーベット)
- 資本金
- 300万円
- 地図
- 確認日
- 2010.02.18
有限会社さぬき果匠会
- 住所
- 香川県善通寺市吉原町1388-1
- 代表電話番号
- 0877-43-3450
- 設立
- 2004年
- 社員数
- 5人
- 事業内容
- キウイフルーツ、もも、みかん、ぶどうの生産・販売
- 資本金
- 500万円
- 地図
- 確認日
- 2010.02.18
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