
耕地面積が全国平均の半分以下で零細農家の多い香川に、農業のチャンスがあるという。就農希望者を受け入れ、外国人研修生を活用して、四つの農業法人を束ねる近藤 隆さん(59)だ。
44歳のとき交通事故に遭い、片足が不自由になるだろうと医者に言われた。もし、足が治ってもう一度農業がやれたら・・・・・・。近藤さんは病床で天井を眺めながら、10年先の農業経営を構想した。そして実践した。
※(食糧の自給率)
カロリーベースの食糧自給率39%、2006年度。
農業は面白い

「台風で立ち直れないときもあります。価格が暴騰して思わぬ利益をあげるときもあります。思うようにはいきませんから5年ぐらいのスパンで収支を考えます」
農地は「借り手市場」
「ひと昔前まで『1反米1俵』が香川県の相場だったのに、タダでいいという畑が多い。固定資産税も水利費も負担するから、農地を耕してという人さえいます」。宅地化しやすい農地は資産だ。相続税が安い農地のまま置いておきたい、からだ。
新規就農者に農業経営を任せる
「1週間程度の体験研修に、多いときは年に30人くらい、東京からも来ます」。いままでに10人あまりが後継者として自立した。
「香川でも農業で自立できるんです。百年に1度の不況は人材確保のチャンスです」。就農希望者には、農業技術のほかに、簿記やマーケティングなども1年間研修する。 新規就農者は若い頭脳と丈夫な体だけが元手だ。資金も畑もコネクションもない。近藤さんが設立した農業法人が自立を支援する。
「1年間研修した後、個人経営を目指す就農希望者には会社を任せます。利益を出せるようになればもう大丈夫です。その利益は自立のために機械設備を買う資金でもあるんです」。農地や運営資金の借り入れの連帯保証人になるなど、近藤さんは自分の息子のように面倒をみる。
法人化とグループ化で信頼を得る
四つの会社の栽培面積は60ha。軟弱野菜を中心に冬場はレタス、一年中を通してねぎを栽培、米も作る。「レタスで年に3作、小松菜だと年に7作以上回転できます。北海道や長野は、冬は作れませんから2作が限界です」
手間のかかる軟弱野菜は、耕地面積の小さい香川県に適している。人口密度が高いし、労働力も販売先も確保しやすい。
※(ロット)
品物の取引や製造を行う単位のこと。目的に応じて発注ロット、製造ロット、運搬ロット、販売ロットなどという。
他業種並みの収入を確保する
繁忙期だけパートを使うか、常用で雇用するか・・・・・・。常用雇用で利益を出すのは難しい。「多くの人はここで立ち止まります。でもパートと外国人研修生を組み合わせると、他業種並みの年収が可能です」
外国人研修生は、香川県で72の農業経営体が200人ほど受け入れている。「大切な労働力です。農業は労働基準法が適用外ですが、外国人には適用されるので日本人より処遇が良くなる場合もあります」
※(農業経営体)
一定規模以上の農林業生産活動を行う者。組織の場合は代表者。
ピンチにチャンスをつかむ

「もし、もう一度農業ができるのなら後継者を育てて就農を支援しよう。外国人の研修生を受け入れよう」。毎日病床で右足を治療器に引っ張られながら天井をみて考えた。
「農業は、介護と同じでこれから労働力が極端に減ります。新規就農者を育て、働き手を海外から連れてこなければ農業の自給率は上がりません」
2006年からタイの山間部で、野菜つくりを応援するNGO活動も始めた。「国に戻った研修生が自立して仲間を増やせば、その人たちを日本に出してもらうこともできます」。仲間を増やして助け合う。そして日本の農業を支える。
農業の基本は土づくりだ。客土や水回りの改良で農地を作る。人づくりも同じだ。意欲のある就農希望者を受け入れて、自立を支援する。
近藤さんは、ジグソーパズルのような試行錯誤でピンチにチャンスをつかむ。農業はしんどい。だけど面白い。
※(客土)
性質の異なる土を混入して土壌改良すること。
1972年に大学を卒業後、2年間の米国研修と台湾でタマネギづくりを見てきた。「台湾の南、高雄の気候は温暖で、当時の台湾はタダみたいな労賃でした。アメリカでは、向こうが見えないくらい広い畑を機械でタマネギを収穫していました」
日本のタマネギ栽培は手作業だ。台湾も同じだが労働力が安い。アメリカは広大な畑を機械でやる。世界から輸入できるタマネギに将来はないと思った。
「おやじに、軟弱野菜で勝負するといって、小松菜やホウレンソウやレタスを始めました」。優秀な人ほど農業以外の業種に就職するので、競争相手が少なかった。狙いが当たって土地も買い、蓄えも出来た。「順風満帆の時に交通事故に遭って、死んだと思いました。もういちど農業がやれるのなら、金もうけより他のことをやろうと思いました」
近藤 隆 | こんどう たかし
- 略歴
- 1950年 善通寺生まれ
1972年 日本大学農獣医学部卒業
1973年 アメリカで農業研修(派米農業研修)
1977年 専業農家を継ぐ
2000年 (有)やさい畑 設立
2005年 (有)めぐみ 設立
2006年 (株)まっ赤なトマト工房 設立
2008年 (株)近藤農園 設立
公職及び褒章
2003年 第1回かがわ21世紀大賞受賞
株式会社 近藤農園
- 住所
- 香川県善通寺市与北町3082
- 代表電話番号
- 0877-62-1297
- 設立
- 2008年
- 社員数
- 15人
- 事業内容
- 青ネギ、レタス類、キャベツ、コマツナの生産・販売
- 地図
- 確認日
- 2009.05.07
有限会社やさい畑
- 住所
- 香川県善通寺市与北町3082
- 代表電話番号
- 0877-62-1297
- 設立
- 2000年
- 社員数
- 7人
- 事業内容
- 水稲・青ネギ・レタスの生産、販売
- 地図
- 確認日
- 2009.05.07
有限会社めぐみ
- 住所
- 香川県善通寺市与北町3085
- 代表電話番号
- 0877-62-1297
- 設立
- 2005年
- 社員数
- 6人
- 事業内容
- 水稲・青ネギ・レタスの生産、販売
- 地図
- 確認日
- 2009.05.07
株式会社まっ赤なトマト工房
- 住所
- 香川県さぬき市寒川町石田東甲698
- 代表電話番号
- 0879-23-2151
- 設立
- 2006年
- 社員数
- 10人(パート4人を含む)
- 事業内容
- ミディトマトの生産・販売
- 地図
- 確認日
- 2009.05.07
おすすめ記事
-
2010.02.18
年収1000万円!
果物専業農家に人生を賭けるキウイバードコーポレーション 代表取締役社長 島田 満沖さん
-
2011.10.06
「信頼」の復権 ~地域をもっと支える農協へ~
JA香川県 代表理事 田辺 広さん
-
2023.05.04
「讃岐の食文化」の素朴な疑問⑭
野菜ソムリエ上級プロ 末原 俊幸
-
2023.04.20
鬼ヶ島を農業で元気に
鬼の畠 代表 中條 祐太さん
-
2022.09.01
「讃岐の食文化」の素朴な疑問⑥
野菜ソムリエ上級プロ 末原 俊幸
-
2022.01.06
博物図譜に見る讃岐の野菜~サトイモ~
野菜ソムリエ上級プロ 末原 俊幸
-
2021.12.02
博物図譜に見る讃岐の作物~サトウキビ(甘蔗)~
野菜ソムリエ上級プロ 末原俊幸
-
2021.10.07
人類堆肥化計画
著:東千茅/創元社
-
2021.09.02
企画、製造、物流…農家と企業のつなぎ役
TKGアグリ 明石 修司さん
-
2021.08.19
「はざまいちじく」を全国区に
株式会社Bettim/篠原仁一朗さん
-
2020.08.05
県産「花き」の魅力知って
花の里かがわ推進委員会
最新紙面情報
Vol.412 2025年08月21日号
「ここに来て良かった」 生徒一人一人に寄り添って
学校法人村上学園 理事長 村上学園高等学校 校長 村上 太さん
モニタリングの知見を生かし 地域と「顔の見える対話」を
日本銀行 高松支店長 稲村 保成さん
諸機関と柔軟に連携し 四国の中小企業に寄り添う
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 四国本部長 田中 学さん
まち全体を一つの「宿」に見立て 古民家を核に日常風景の魅力を発信
NIO YOSUGA 代表取締役 竹内 哲也さん/菅組 社長 菅 徹夫さん
生徒の「やってみたい」が地域とつながる 進化するボランティア団体「TSUNAGU」
大手前丸亀中学・高等学校