「讃岐の食文化」の素朴な疑問⑥

野菜ソムリエ上級プロ 末原 俊幸

column

2022.09.01

田植定規を使った田植えの風景

田植定規を使った田植えの風景

農業体験で見慣れぬ農具を使って田植えをしました!

現代では、田植えは田植機を使って行われますが、これが開発される前までは、手植えによる田植えが行われていました。現在行われている早苗を整然と植える方法(正条植)は、江戸時代後期から、作業効率の向上のために有効であることが認識されており、明治時代中期には、本格的に「正条植」が提唱されるようになり全国で普及しました。

正条植の方法として有名なものとしては、ロープに等間隔の印を付け、このロープをずらしながら田植えをする「紐張方式」、水田にあらかじめ植える場所の目印をつける「筋引き」などがあります。このような中、香川県では田植定規の技術が普及し、昭和30年頃には、定規による田植えが100%になったという記録が残っています。ちなみに、全国平均では、この割合が約1割であったとのデータが残っていますので、100%という数字がいかに特殊なものであるかがお分かりいただけると思います(2位が徳島県の9割、3位が鳥取県の7割、4位が愛媛県の4割)。

さて、この立役者が、今回のご質問にある田植定規「串田式正条田植器」です。この農具は、小学校の校長であった串田太市氏が、明治39年に商標登録を行ったもので、当時大ヒット商品となりました。

他の田植方式と「串田式正条田植器」を比較すると、その特徴は、以下のように整理でき、手植え方式の田植えの中では、最も効率的な技術であるといっても過言ではないと考えます。
①個人で作業が完結すること
②器具を持ち運びできること
③水田の形状に影響されないこと
④熟練度に関わらず一定以上の精度で作業できること

実際、ベテランの女性(※男性は、苗を運ぶなどの力仕事を担っていた)は1日に1反(1,000㎡)の水田を植えきることができた、との逸話があちこちに残っています。60代くらいの方の中には「串田式正条田植器」を使って田植えをした経験のある方がいらっしゃいますので、当時の田植えがどうだったか、ぜひ聞いてみてください。

野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん

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