香川県には農家の方が「さえんじ」と呼ぶ畑があります(西讃は「しゃえんば」、小豆島は「なじり」など)。家の近くや、水田の隅に作られた狭い野菜畑「菜園」のことを指します。この畑では、日々食べる野菜に困らないように、年間を通じてとても多様な野菜、イモ類、豆類が栽培されています。現在でも、高松中心市街地から3キロほど行った農地が残るエリアに差し掛かると、稲の作付けがされている農地に混在して「さえんじ」の存在を見ることができます。この「さえんじ」に作付されている品目こそが讃岐の食文化を支える品目です。
讃岐の食文化を考える上で、食材の供給源である農業を「産業」と「生活」に分けて考えると、理解が進みます。まず、産業としての農業とは、レタス、ブロッコリー、アスパラガス等、大量生産が可能で県外に向けて出荷をする品目のことです。栽培技術や出荷形態等を統一し大量生産・大量出荷することで、大都市の市場で有利な取引を図っています。ニンニクやレタスなど統計上全国上位の生産量を誇る品目も存在します。
そしてもう一方が、生活のための農業で、マンバ(高菜)、セレベス(サトイモ)、葉ゴボウなどの品目が挙げられ、讃岐の食文化にはなくてはならないものです。「さえんじ」で栽培されて日常的に消費されてきた品目ですが、一方で、市場流通により県内へくまなく供給されています。
これら地域性の強い品目は、県内に一定のニーズが確実に存在し、そのニーズを満たすために生産する農家があり、そして市場流通により県内へ安定供給される規模の数量としてまとまっています。日常生活で大切に利用されてきた品目が、県内を対象にした産業として成長してきたのです。
香川県の農業は、産業から生まれたものと日常生活の中から生まれたものとの二面性が明確に存在しています。生活に根差した食材が県内のみで消費されるにもかかわらず、かなりの取引量があることから、香川県は独特の素材で構成される食文化を持っていることが分かります。
【豆知識】
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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