
今回の本は料理に関する本ですが、人気料理家のレシピ集でも、料理評論家や作家のエッセイでもありません。「私、結婚したら毎日違う料理を作るんだ!」と言い職場を去っていく先輩の送迎会での言葉に誘われて、文化人類学者の著者は家庭料理というフィールドにおもむき、家庭料理60年の変遷を追います。
週の半分以上はスーパーに通って夕食を作り、献立に悩んだり、弁当のおかずに苦慮してきたという著者は、先輩の宣言に「暮らしは自由にデザインできる」という新しい発想の輝かしさと苦しさを嗅ぎつけたと言います。執筆に先立ち1960~2010年代に刊行された様々なレシピ本を収集したり、レシピ投稿サービス「クックパッド」も使いながら多くの料理を作ったと言います。
小林カツ代と栗原はるみのレシピ対決5番勝負をおりまぜながら、家庭料理は心を込めた手作りが大事なのか、手軽なアイデア料理が素晴らしいのか、市販の合わせ調味料は「我が家の味」を壊すのか?様々な問いと倫理が齟齬を伴いながら結びつくとも述べます。
「日々の料理を作り食べること。それは暮らしという足下から私たち自身を考えることにつながっている」
さて、あなたは明日なにを食べるのだろうか。
山下 郁夫
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
- 坂出市出身。約40年書籍の販売に携わってきた、
宮脇書店グループの中で誰よりも本を知るカリスマ店長が
珠玉の一冊をご紹介します。 - 写真
宮脇書店 総本店店長 山下 郁夫さん
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