常識と格闘し、感動をデザイン

藤本デザイン研究室 グラフィックデザイナー 藤本 誠さん

Interview

2015.02.19

藤本誠さんは、企業ロゴ、商品パッケージ、広告ポスターなどを手掛けるグラフィックデザイナーだ。日プラ、レクザム、めりけんや、喜代美山荘花樹海・・・・・・いたるところに藤本さんのデザインが溢れている。デザインとは「説明」ではなく「表現」すること。それが心に届く力になるというのが藤本さんの考えだ。

製麺機メーカーから会社案内製作の依頼が来た。藤本さんの手に掛かると、製麺機は前面には出てこない。あるのは婚礼の「三々九度」の盃だ。

「常識で考えると、製品写真で性能などを説明しアピールします。しかし、出荷する製麺機を、娘を嫁に出す親の心境に重ね合わせました。手塩に掛けた自慢の娘だと表現したわけです」

今76歳。デザイン一筋の人生は、いつも常識との戦いだった。「普通の人は年を取ると丸くなりますが、私は一切ならない。逆に尖り続けていますね」

企業には信頼を、生活者には感動を表現したいと藤本さんは語る。

客の目線で一緒に創る

企業からロゴや商品パッケージをデザインしてほしいと依頼が来ると、まず、その企業を徹底的に調べる。どんな商品や販路があるのか、経営者はどんな志を持っているのか。消費者が商品についてどう思っているのかをモニタリングすることもある。「何が問題になっているのかを知らないとデザインはできません。浮かび上がってきた問題に対し、私が何を解決できるのかを考える。それが本来のデザインの仕事だと思います」

企業が売り出したい商品や、企業そのものを広く世間に知らしめる。企業と消費者の間に立って橋渡しをするのがデザイナーだと話す。だが、藤本さんは決して企業側には立たない。企業の目線で「どうやったら売れるのか」を考えるのではなく、消費者目線で「どんなものだったら買うのか」を考える。

「クライアントの要望に忠実に応えるのがこれまでのデザイナーでしたが、これからは違う。一緒に考えて、一緒に創っていく。企業本位の時代はとっくに終わっています。社長に同調して川上から『それ良いですね』と言うのではなく、逆に川下から『社長、それは違いますよ』と言ってあげる。それが出来るかどうかだと思います」

とは言っても、社長に意見するのは簡単ではない。だから藤本さんは徹底的に調べ上げる。説得できる材料を用意し、信頼してもらう。商品ラベル一つを作るのに大量のレポートをまとめるのも厭わない。

かつて、うどん製造販売会社のプロモーションを担当した時、藤本さんはこれまでの商品イメージとは全く異なるパッケージ案を提案した。賛否両論が出た。社長も違和感を感じている様子だった。しかし、藤本さんは折れなかった。「でも、最終的に社長は『藤本の言うことを聞こう』と言ってくれました」。その後、売上はデザイン変更前の1.5~2倍アップしたそうだ。

「『お金出すんやから言う通りやってよ』と言われても、『納得できません』と言うこともあります。でも、年を取ってからですよ、そんな風に尖り出したのは」と笑う。

社会の宿題に答える仕事

手掛けた企業ロゴ(上)や商品デザインは数百社以上にのぼる

手掛けた企業ロゴ(上)や商品デザインは数百社以上にのぼる

幼い頃から絵を描くのが好きだった。高校生の時デザインの道を志したが、家族や親戚に反対され地元の大学に進んだ。しかし、あきらめきれなかった。大学を途中で辞め、3年間の浪人生活を送ったのち、東京芸術大学に入った。

「デザイナーは社会から宿題をもらってクリエイティブなものを創り出す。そういうことに携わって世の中の役に立ちたいと思ったんですね。そこからはもう一本道です」

大学卒業後は倉敷紡績(クラボウ)に入社し、17年間、大阪のデザインセクションでファッション関連の広告宣伝などに携わった。

高松に戻った後は、ブリヂストンスポーツが行うリニューアルしたゴルフ練習場の全国プロモーションなどを手掛け、2000年に藤本デザイン研究室を立ち上げた。スタッフはずっと藤本さん1人だが、香川を拠点に数々の企業や商品を「表現」してきた。

三木町の水槽用アクリルパネルメーカー、日プラの会社ロゴは、スペインの画家・ミロのイメージを出してほしいという社長のリクエストに応え、太陽・水・人間で、世界のマーケットに挑んでいく日プラを表現した。

高松市丸亀町の菓子工房おんまい・ルーヴは、コンセプトを始め、ポスター、商品パッケージなど店舗のトータルデザインを任された。「おんまい」とは讃岐弁の幼児語でお菓子という意味。古くから伝わる香川の素材や人のぬくもりを後世に伝えていきたいという思いを、店名、商品、しつらえなどの全てに込めた。

「自分の概念を全部ぶち壊して、とにかく面白いものを創りたい。その世界にどっぷりつかった常識人ではできないことを柔軟にやっていこうと思っています」

人の暮らしをハッピーに

藤本さんが現在取り組んでいるのは、「香川をデザインすること」だ。それは、故郷への恩返しでもある。

「今は全国47都道府県が地域をどう活性化するか競い合っています。47人がマラソンを走っているようなもの。香川には頑張ってもらいたいんです」

地元の書道家、池田秋濤さんらと組んで、讃岐弁をまとめた本「ちっとたんねるけど讃岐の方言知っとんな(ちょっと尋ねますが讃岐の方言知っていますか)」や、讃岐弁検定試験の冊子を作り、県内の観光地などで香川をPRしている。讃岐弁40語にアクセント記号を加えたユニークなポスター「讃岐弁アクセント講座」は今月完成したばかりだ。「香川のオリジナリティーがあって他に無いもの、ということで方言に行きつきました。方言をプリントした手ぬぐいは売れ行き好調です」

栗林公園にある香川の物産館、栗林庵などと一緒に新たな土産物づくりも進めている。桃太郎、浦島太郎、かぐや姫、香川に伝わる3つのおとぎ話と地酒をコラボレーションしたカップ酒。香川オリジナルのお米、おいでまいなど地元食材だけを使った「オール讃岐」のクッキーも計画中だ。

「人の欲求や願望を形にして価値を生み出す。デザインとは価値や感動を創る仕事だと思うんです。そして、ビジネスをハッピーにし、人の暮らしをハッピーにする。それがデザイナーの使命です」

藤本さんが手掛ける香川の新しい土産物は、この春、店頭に並ぶ予定だ。

◆写真撮影 フォトグラファー 太田 亮

藤本 誠 | ふじもと まこと

1938年9月27日 高松市生まれ
1964年 東京芸術大学美術学部デザイン科 卒業
     倉敷紡績株式会社 入社
1981年 デザイニングエーシー 入社
2000年 藤本デザイン研究室 設立
主な実績
ブリヂストンスポーツゴルフ練習場プロモーション/キャスコシンボルマーク・ロゴタイプ/小豆島手延素麺協同組合シンボルマーク(島の光)/四電ビジネスV.I計画/さぬきワインシンボルマーク、ボトルラベル・パッケージ類/大和製作所各種プロモーションツール/四国電力広報紙 「ライト&ライフ」制作/菓子工房ルーヴ「おんまい・ルーヴ」店ロゴタイプ、パッケージ類一式、壁面デザイン 他

日本新聞協会奨励賞、年間全国イベント企画グランプリ、全国優秀パンフレット展連盟賞、全日本DM大賞奨励賞・地方ブロック賞、香川広告協会広告賞新聞部門最優秀賞など受賞歴多数
写真
藤本 誠 | ふじもと まこと

藤本デザイン研究室

住所


高松市塩上町3-8-11 クリエイトビル3F
TEL:087-812-0824
FAX:087-812-0826
事業内容
プロモーション戦略・計画の立案、
ロゴ&マークのV.I(Visual Identity)計画、
パッケージデザイン、グラフィックデザイン全般
確認日
2018.01.04

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