
あん餅雑煮
さて、雑煮は、正月に各家庭に戻って食することから、他の家の雑煮文化が、自らのものと全く異なることに気が付くことはほとんどりません。特に、人の交流や情報の伝達が今ほどではない時代には、自分の家の雑煮と違うものが存在するという考えにはなかなか至らなかったでしょう。
実際、全国的に雑煮文化の比較が本格的に行われ始めたのは、昭和50年代です。香川県においても、県農林部が主体となっておこなわれた県下の食文化の調査が、昭和58(1983)年に『さぬき味の風土記』として刊行されました。この本は、「雑煮にあん餅を入れる」という記述が多く出てきますが、中には「雑煮を食べる」という表現だけで、あん餅か白餅かの判断ができない事例がそれ以上にあります。当時はまだ、「あん餅雑煮」が特殊なものであるという認識が浸透していなかったことがうかがえます。また、このころ出版された書物には、「アン入り雑煮」「あんこもち雑煮」「小豆雑煮」と、その表現も確定していなかったこともわかります。
その7年後、平成2(1990)年に発行された『日本の食生活全集 聞き書 香川の食事』では、1ページ目にあん餅雑煮がカラー写真で紹介されるなど、この10年の間にあん餅雑煮が、讃岐独特の食文化であることがより多くの人に認知されてきたことが見えてきます。
ちなみに、あん餅雑煮の文化が広域的に存在するのは日本全国どこを探しても香川県のみなのですが、実は限定的ではありますが、広島県呉市、島根県益田市、熊本県天草市、大牟田市などにも存在することが分かっています(友の会調べ)。もう一つ、甘い雑煮の文化として、山陰に残る「小豆仕立て(いわゆるぜんざい)」の雑煮が存在します。
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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